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きみのためにしてきたことを/リルユウ
──キミのためにしてきたことを、
あいつが来てから、最近良くないことがよく起こるようになったよな。
全てあいつが原因なんじゃないか?
そもそもの原因って……
あいつがいるから、
「化け物」
「消えろ」
どうせ僕はただ、世界を救うために作られた、ただそれだけの存在だ。
心無い言葉を投げかけられたって、
石をぶつけられたって、
僕にはどうでもいいことだった。
だって、人間は惨めで、弱い、簡単に壊れてしまう存在であることは知っているから。だから、今さらだ。
そう、
だから、今さら、
この胸の痛みが何かなんて考える必要も知る必要もない。
それを知らなくたって、ただこの胸に刻まれていく痛みが増えていくだけ。
ただ、ただ、それだけのこと。
それだけの、ことなのに、
時折起こる、この頬を何かが伝う感覚は、一体なんだろう…?
「ユウ?!ど、どうしっ、目…な、泣いて……っ!誰かに何かされたのか!!?」
「え…?目?…あ、うん、これ…なんかよく分からないけど、なんだろ…塵でも入ったかな」
「だ、大丈夫……なのか?もし何かあったなら、オレが…!」
「別に…なんでもないよ。キミは大袈裟だね、相変わらず」
「そ……そっか、それならいいんだ、けど…ごめんな、目痛い?オレ、みてあげようか?」
「ううん、もういい。なんでもない……なんにも、ないから…だからいいよ」
フフ、と声を出して少しだけ笑って見せれば、キミは身振り手振りとさまよわせていた手を僕の頬にやり、目から出ていた雫を拭って僕の顔を眉を下げた表情で覗き込んできた。
僕が笑えばいつも笑ってくれるけど、今はしてくれないんだね。
そんなことが気に入らなくて、僕はその手から逃れるように、身動いで、また彼に笑いかけた。
その時、少しだけ、痛みとは違う胸の苦しさを感じていた。
僕はただ、キミさえ笑っていてくれたら、それで良かったんだ。
キミさえも、そんなカオにしてしまうなら、もう、
いいかな。
「ユウ………」
君が居なくなってから、もう幾つの世界を目にしてきたかも覚えていない。ただだ君を求めて世界を巡り、君のいない色褪せた世界を''救って''きた。また君の笑顔を、それだけを胸に抱いて。
結局、あの時、オレはそれ以上何か、してあげることができなかった。
ただ、ただ、使命を果たす君を見て、分かっているはずなのに、何もしてやれなかった。
自分が、一番よく知っていたはずなのに。
''オレたち''が、人間から心無い言葉を受けることはよくあることだった。元も子もない理不尽な暴力を受けることも。
産まれたくて生まれたわけではない。こんな世界、なんて何度思ったことだろう。
でも、君は弱音を吐くことも弱さを見せることも最後までなかった。そして、大丈夫と嘘をつくことも。
最後の最後まで、笑っていたんだ。
助けてあげる。そんなのはただの自分を保つ言葉でしかない。君のためになんて言って、心のどこかで結局オレは自分を取ってしまっていた。
泣くことも悲しいことも不安も悩みも、胸のつかえが君は何かすら知らなかったんだろう。
知らないことに不安を感じて、そしてその不安に気づかずにためて、ためて、
辛いことすら分からないように作られた''オレたち''に、自由なんてどこにもない。ただ知らないだけ、俺たちは何も知らない、井の中に放り込まれたただ力を持たされただけの蛙でしかない。
わかっていたのに、知ってしまうことに対する怖さも知っていたから、オレは何も言えなかった。何も、何も。なのに、
君は最後まで笑っていた。
オレの目の前からいなくなる最後の瞬間、初めての嘘をついた時にも、
いつもと変わらない、あの儚げな笑みを浮かべていた。
笑う意味を知らない君が、笑う理由を、オレは今も知らない。
あれが、本心からの笑顔だったのかどうかも、オレは、何も知らない。
オレは君のことを何も知ろうとしていなかったんだ。
だからもし、もう一度君に逢うえることができたなら、
その答えを知りたい。
そして、君が笑う理由を知った上で、君の笑顔を、オレが好きな、そのカオを、見たいんだ。
-キミ-
君と向かい合って、笑いたい。
それが僕の、最後の願い。
-オレ-
大好きな君の笑顔を、キミの隣で。
──君のためにしたことは、
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リルトとユウの別れからの再会につながる話、自分用みたいな感じのなので雰囲気です。
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