(※成人後、同棲中)


昨日の私は何をした?

覚醒した。起き上がった。シーツがはらりと落ちた。裸だった。

横を見た。男がいた。シーツを捲ってみた。こいつもまた、裸だった。

「ねえ、赤司起きて」
「……ん、」
「おはよう」
「……おはよう」
「おやすみなさい」
「ぐわっ!」

私はまだ半分寝ている赤司を殴ろうと、勢いをつけて拳を振り降ろした。(ごめんね)もちろん、寝起きで反応が鈍いところを狙ったのだ。(愛してるから許して)

が、しかし、

(…ちっ。完璧に殺ったと思ったのに)

あと一歩のところで避けられてしまった。くそ、失敗だ。

「な、何をする!一気に目が覚めたじゃないか!」
「だって、あなたの記憶を消さないとって思って」

記憶…?ああ、昨日の、と一瞬考えを巡らせ、そしてすぐに腑に落ちた赤司は、愉しげに口角を上げた後、「とりあえず、服、着よう」と私のBカップを指差したのだった。ああくそ。

「…パンツとブラ取って」
「トランクス取ってくれ」
「私、ボクサー派なんだ」
「僕も白より黒の方が好きだ」

わるかったな、白で。





どうして私が赤司を殴るという奇行に走ったのか説明させてほしい。

昨日の夜、赤司は一週間ぶりに私たちの愛の巣へ帰宅。社会人バスケで遠征に行っており、当たり前のようにトロフィーを持ち帰った赤司に、私はべったべたに甘えた。(だって寂しかったんだもーん)ここまではいつものようにバカップルで、何の問題もない。

が!その数時間後!

私はこの男のせいで、普段の私からは想像出来ないほど、ものすごく、それはそれはものすごく、これ以上はないってほどに、厭らしくなってしまっていた。あられもない姿、それこそ痴態と呼ぶにふさわしい、いやもしかしたら、それ以上かもしれない、そんな恥ずかしい姿をこの男に見られてしまっていた。というより、この男が急に野獣化し、半ば無理やりそれに付き合わされたのだ。

「後半ノリノリだったくせに」
「だまらっしゃい!」

だから私は、今すぐにでも、この男の記憶を抹消しなければならない、のである!


というよりも、あんなことをしでかして、これから先、私は、この男と、一体どんな顔をして生活してゆけばいいのだろうか。あれは普通のプレイじゃなかった、と思う。兄がいた私は、勿論エロ本エロビデオの類いは目にしたことがあるが、昨日のあれはそれらを軽々と超えるくらいに…!ああどうしよう。それこそ私は、今後、この男の指先を見る度に、発狂したくなり、この男の腰を見る度に、清水の舞台から飛び降りたくなるのだろう。それぐらいの、一夜だった。(句読点の多さから私の動揺を読み取ってほしい)

「だからって朝から殴るやつがあるか!」

だって恥ずかしくて耐えられないんだもん。

ああもう信じられない。昨日の私が信じられない。シラフだったということで、さらに信じられない。反省すべき点は、この男の口車にまんまと乗せられてしまったことだ。気がついたら、淫らに乱されていた。さらに、真っ当な人生を歩んでいれば一生言わないであろうことを言わされ、真っ当な人生を歩んでいれば一生しないであろうことをさせられ、そしてさせた。シラフ、だった。ここ重要。昨日の私は何をした?思い出せる限り、×××を×××して×××した後×××をまたさらに…うわああああああ。

「…赤司、全部忘れようか」
「もちろん嫌だよ」

墓場まで持っていこう。ニヤリ、と意地悪く言われれば、流されてあんなことやこんなことをしでかしてしまったことを後悔した。せめて私たちにお酒が入っていれば、私が×××したことも、赤司に×××させたことも、アルコールの力によって、全て脳内から取り除いてくれたかもしれないのに。

最初はイヤイヤだったくせに、なぜか、最後にはノリノリになってしまっていた昨日の私を刺しに行きたい。何をやってるんだね君たちは!と、お節介オバサンの如く乱入し叱りつけに行きたい。何の脈絡もなく突然一発ギャグを披露して、ギンギンの赤司君を萎えさせに行きたい。

「昨夜は、久しぶりに激しかったな」
「それ以上言うと怒るわよ」


(…それにしても、)

それにしても、どうして赤司はこんなに余裕綽々なのだろうか。今だって私の反応を見て、一人で楽しんでいる。ここで言っておくが、赤司だって昨日はなかなかの乱れっぷりで、普段の赤司からはとても想像できない、そんな恥ずかしい姿を私に見せてくれたのだ。(主に攻守逆転した時に)なのに、どうしてこうも平然としていられるのだろう。どうして私の記憶を消そうとしないのだろう。

そして、どうしてこんなにも清々しい顔をしているのだろうか…!

「…気持ちよかった?」
「ばかじゃないの!」
「あぶない、やめろ」

投げた枕は普通に避けられた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「…うわああああああ!うわああああああ!」

忘れたい!忘れさせたい!

ああもうだめだ。この男はもうだめだ。そして私ももうだめだ。これはもう、自分で自分を殴って、自分の記憶を抹消するしかない。そして何事もなかったかのように、昨日までの純粋な女に戻るのだ。あんなことやこんなこと、ましてや×××なんて、何それ美味しいの?な大和撫子に戻るのだ。さあ私、拳を握ってレッツ現実逃避!



すごく可愛かった





「こうやって君と一歩ずつ進んでいけることが、僕はすごく嬉しい」

さあいざゆかん、と加速させたグーの手をパシッと掴まれ、優しい目で見つめられれば。

「…何が一歩だよ。走り幅跳び級の一歩だったじゃねーか」

私はもう、憎まれ口を叩くしかなかった。(ああもう!)
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