「いいなあ、征太は」
「どうして?」
「お父さんの字、貰ってるから」

学校ではもう漢字を習い始めたけど、如何せん進度が遅過ぎてつまらないので、僕達二人はこうやってよく自主学習をしていた。今日はリビングの机の上に漢字辞典を開いて僕達二人の名前の意味を探っている。膨大な数の漢字の中から僕の「征」という字を見つけた時、急に芹那がそんなことを言い出したのだ。

「うん」
「でしょう?」

何て答えたらいいのか分からなくてとりあえず頷くと芹那も頷いた。

「私達は双子で、同じ愛を享受しなければならないはずなのに、どうして征太だけがお父さんの字を貰ってるの!」

突然癇癪を起こしたような芹那に、

「まー、芹ちゃん享受なんて言葉使えるのねー!赤司君に似て賢いね!すごいなあ!」

桃井のさつきちゃんがそれさえも可愛いと芹那の頭をむしゃくしゃに撫でた。

「何で私は征那じゃないの?何でお父さんの字を貰えなかったの?ねえ、さつきちゃん、何でか知ってる?」

芹那は探求心が僕よりも強くて、質問し出したら止まらなくなる癖がある。最初は「良い学者になるわ!」とお母さんは喜んでいたけれど、最近はあまりにもしつこいから途中で投げるようになってしまった。お父さんはお母さんよりも比較的我慢強く芹那の質問に答えてあげてるみたいだけど。

「うーん…知らない。でも、きっと意味があるのよ」
「意味?どんな?教えてさつきちゃん!」

質問攻めにされてさつきちゃんは困っている。

「私じゃなくて芹ちゃんのお母さんに聞いてみなよ、」
「もう聞いたよ。そしたらはぐらかされた。芹那にはまだ早いわって言われた。お母さんは何も教えてくれないからつまんない」
「あら。じゃあ、赤司君…父さんの方に聞いてみたら?」

さつきちゃんの言葉を聞くやいなや芹那は漢字辞典を引っ付かんでお父さんの書斎に走っていってしまった。ドドド…!という音を聞いて何事?とお母さんが台所から顔を出す。さつきちゃんはクスクスと笑っている。

「芹ちゃんは良くも悪くもまなと赤司君の子供ね」
「ちょっと桃井、それどういう意味?」

お母さんが顔をしかめた。勉強道具がなくなってしまった僕は仕方なく読みかけの本を開く。

「征太君は赤司君にそっくり」
「でしょう?征太が何をしても小さい赤司にしか見えないの。もう可愛くて可愛くて」

数十分後、とても満足したような顔をして帰ってきた芹那を見て、なぜだろう、僕はちょっとだけ悔しくなったんだ。





哲学少女
(……良かったね、芹那。何だろう、この気持ち)
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