「年は、天才でーす。血液型は、クワガタでーす」

瞬間、鳥肌がたった。そして、(馬鹿じゃないのか、)と思った。僕が属する一年一組のみんなは大口を開けて笑っているが、残念ながら僕には何が面白いのか微塵も理解出来なかった。

黒板の前でその少年はなにやら奇妙な行動をとっている。それが今流行りの芸人の物真似だと気付くのにまた少しの時間を要した。頭をやられたのではなかったのかと気付いて安心する。

(………………)

(…これが小学校、)

(これをあと六年間…)

(………、……)

(…………むり、)

大体、小学校の雰囲気全体が苦手だ。僕には合いそうにない。授業も舐めているのかというレベルのものばかりだし(足し算ひとつするのに一々お花を描かされる)、時折催される行事に至っては一年生は幼稚園児扱いに等しい(迷子にならないように常に誰かと手を繋いでいる)

そして今日。

何が「二年生のお姉さんお兄さんとの交流会」だ。交流して何になるというのだ。天才、クワガタ、などとほざく上級生と交流してもきっと何も得られやしないのに。

教室に戻って一人本を読んでいたい、そんな事を思いながらもう一人の僕を探す。きっと芹那も同じ事を思っている。昨夜芹那は、「学校って友達がいなかったら別に行く意味ないよね」と言ってお母さんを困らせていた。芹那も僕も周りの一年生とは違う一年生なのだ。

するとなんと。

僕の予想に反して。

笑って、いた。

芹那は笑っていた。笑っている。あの芹那が。あの芹那が笑っている。芸人はまっちゃんしか認めないと譲らないあの芹那が、二年生の訳わからない動きに大口までは開けないもののクスクスと笑っている。

僕は多大なるショックを受けた。





「お母さん、聞いて。僕は天才のクワガタだ」
「え?何だって?」
「天才のクワガタ」

家に帰った後、ランドセルを背負ったまま、洗濯物を取り入れているお母さんの背中に向かって言ってみた。芹那は飼い犬のポチとじゃれ合っていて、今ここにいない。

不思議そうに首を傾げるお母さんに向かって、次はあの奇妙な行動をとってみた。勿論今流行りの芸人の真似である。しかもあの二年生より上手い自信がある。

「きゃっ!征太君可愛い!」

喜ばせただけだった。

「…ねえ、お母さん。一体全体、これのどこが面白いの?」

むぎゅう、とお母さんに抱きしめられながらも聞いてみた。

「教えて。僕、全く面白さが分からないんだ。もしかして僕がおかしいの?」
「え?何が?」

よくわからないけどとりあえずお母さんは小さい赤司が踊っていてすごく萌えたわ、なんてお母さんは嬉しげに言うけど僕はそんな事が聞きたいんじゃないやい。



お父さんに聞いてみても僕の納得のいく答えが得られなくて(小学生らしくていいじゃないかと言われただけだった)、結局芹那に直接問いただしてみることにした。

「全然面白くないよ。でも笑わないとだめじゃん。みんなが笑ってる中、征太だけ真面目な顔してたよ。そんなんじゃだめだよ」

征太は生きる力がないね、と上から目線で芹那に言われた。僕は意味が分からなくて、でもきっと芹那の方が正しいんだろうなあ、大人なんだなあ、もっと勉強しなきゃなあ、と思って、読書の量を増やす事に決めたのだった。





マセガキ二人
(二人とも征ちゃん似かな。全然小学生らしくないの)
(僕はどっちかっていうとまな似だと思うけどね)
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