ペ、ペペペペーパー歴6年だけど、だだだだ大丈夫だよね。

だって6年前は運転出来たってことだもんね。

ところで征太、アクセルってどっちだっけ?

「お母さん、タクシーにしようよ」





さっきまで元気だった芹那が突然原因不明の嘔吐をしだした。ゲエエ…と小さい身体をふるふるさせて胃液を撒き散らすその姿に、(ああ僕も芹那も人間なんだ。この身体の中にはあんなものがたくさん入ってるんだ)なんてぼんやり思った。「芹那…!」お母さんは青ざめて芹那を病院に連れて行くことに決めたようだ。

「お母さん、私からもお願い、運転なんかやめて。タクシー呼んでほしいの」
「大丈夫よ芹那。お母さんこういう時強いから。でもなぜかしら。なぜウインカーが止まらないのかしら。…あら!このスイッチは何?」
「お母さん!」

青白い顔をしながらも芹那は悲鳴をあげた。僕はお母さんのカバンから携帯を引っ張り出し、もう空で言えるほどに覚えた番号を打った。こういう緊急時にはここにかけるんだ。お父さん、お父さん、早く出て。

『…もしもし?』
「もしもし。征太だけどお母さんが運転しようとしてるよ」
『何だと?今すぐやめさせるんだ!』

「失礼な!」

お母さんが僕から無理やり携帯を奪って、お父さんに事情を説明し始めた。「芹那が誤ってシリカゲル食べちゃったの!タクシーが混ん出て来るのに時間がかかるから私が…!」そしてお父さんに一言二言話した後、それこそ電話越しのお父さんなら聞き取れないんじゃないかと思うほどに小さな声で「…征ちゃんどうしようやっぱり運転怖い」と言ったのが聞こえた。肩が震えてる気がしないでもない。お母さんは昔、大切な人を交通事故で亡くしたと言っていたのを思い出した。

「うん…うん、わかった、頑張る。ありがと」

お母さんが電話を切った。ふう、と深呼吸してキリリとした目になった。「眼の色が変わったまなは僕よりも強いよ」と以前お父さんが話してくれたことがある。それを知らない芹那が僕の手を握ってきた。

(まだ死にたくないの、)

そうその目が語っている。

(もしかしたら大丈夫かもしれないよ、)

握り返してそう伝えた。

「二人ともチャイルドシートにちゃんと座ってるわよね?出発するから。お母さん覚悟決めたから。征太、芹那のことお願いね」
「うん」

僕も芹那も来年無事小学校に通えるかどうかは全てお母さんにかかっているようだ。そろそろ…と車が動き出した。

(あのお父さんがオーケー出したんだからきっと大丈夫)

というか、そう思わないとやってられない。僕と芹那、二人で強く強く手を握り合った。







結局、ぶつけまくって車は傷だらけになった。けれど、お母さんは芹那を無事に病院まで送り届け、僕の命もまだ続いているからすごい。「新車だったのにごめんなさい」お母さんは全力でお父さんに謝ったが、お父さんはそれを笑い飛ばした。何て寛容な人なんだ、と僕は尊敬した。

「芹那は赤色の車がいい。お父さんと征太と芹那の、おめめとあたまの色だから。征太は何色がいいの?」
「僕は黒がいい」
「黒は鳥のうんちが目立つと思うよ!」

今、お家には車屋さんが来ている。今度はお母さんでも運転出来るようなものにすると言っていた。前の車はお父さんの趣味全開でとてもペーパーのお母さんには扱えそうになかった。

「兎にも角にも、芹那、元気になって良かったね」
「うん!」

僕の可愛い双子の妹。小学校に通い出したら、悪い男が寄り付かないように守ってあげなければいけないな、なんて思った。




母は強し
(まな、よくやったな)
(…ごわがっだー、ぐすん)
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