赤司と結婚して良かったことはそれこそ数え切れないほどあるが、悪かったこともあるっちゃある。

例えば、

「働きたいの」
「だめだ」

ほら、これ。すごく過保護なところ。

「僕の稼ぎじゃ少ないって言いたいのか」
「違うよ。むしろ充分過ぎるくらいだよ」
「じゃあどこに働く必要がある」

私はホワイトボードを引っ張り出してきて1日の予定を書き込んでやった。


午前5時  起床

午前6時  赤司起こす

午前7時半  赤司仕事に行ってしまう。以下、一人の時間。

午前9時  家事終了してしまう。以下、暇な時間。

午後7時  赤司やっとこさ帰宅


「これ見てどう思う?」
「うん。典型的な主婦の1日だ」

暇な、のところを赤線で引っ張ってやった。

「いいとももみやね屋もつまんないんですけど」
「タモさんに謝れ」
「せいじはいいんか」

つまるところ、やることがなさすぎるのが問題なのだ。結婚当初は赤司君の妻!という肩書きにテンションがあがり、何をするにも情熱が有り余っていたのだが。

…いたのだが!

自慢じゃないけど言わせてください。私は家事が得意です。しかも赤司は家を全く汚してくれません。日中、私は何をやればいいんでしょうか。
近所のお友達とぺちゃくちゃするのもこう毎日だと飽きてくる。料理して洗濯して、あとは赤司の帰りを待つだけの日々。最近は家事が終わってしまわないように、自分で部屋を汚してみたりして、そしてそれをいそいそと片付けたりしてる。我ながら頭がおかしいと思う。

「何で働いちゃだめなの?別にアルバイトくらいいいじゃない」

まなさんだって社会勉強したい。上司にへこへこしてみたい。ああ今日も頭下げてたら一日終わったぜー、とか言ってみたいよ。

「まなに出来ると思わない」
「あら失礼な。バイトだってしたことあるのに」
「それは知ってるが」

お願い征ちゃん、と甘えてみてもダメだった。妻は夫の帰りを待つべきだという何とも古臭い考えがその脳みその根底にでもあるのだろうか。

「まなを家から出したくない。ふらふらどっかに行ってしまいそうでイヤだ」

言い争いの末、ようやく赤司が吐き出した本音は、何ともしょうもないものだった。しかし同時に、私の顔を真っ赤にするのには充分すぎるものだった。あらまあ!可愛い!

「行かないに決まってるでしょ」
「ふん。どうだか」
「信じられないっての?」
「ああ、そうだね」
「ひどい!」

お互い照れから、喧嘩になりそうです。





「起きてください旦那様」

結局、赤司も私も譲らなかった。赤司の気持ちもわかるが私の気持ちもわかってほしい。暇な時間は人を殺すとはよく言ったように、天井を見つめているだけの日々は私には辛過ぎるのだ。

赤司は私がいなくなることを極端に恐れている。そりゃあ絶対に口に出さないし顔にも出さないけど、可愛いくらいビンビンに伝わってくる。私はどこにも行かないに決まってるのにどうして分かってくれないのかしら。

「行ってらっしゃいませ旦那様」

まあそれにしても、私も何とも嫌みな女ですこと。「ああ今日もいいともとみやね屋に愛想笑いする一日が始まるわ」なんて言わずにはいられない。

「今日のテレフォンショッキングはまなの好きな太木数子らしいな」
「ええ知ってるわ!12時10分からの15分間だけ暇を忘れていられるから今からとても楽しみなの!」

私一人イライラして、旦那様は昨日のことなんか全く気にしてないようで。私の嫌みをもろともせずに、

「じゃあ行ってくるよ」

と、行ってらっしゃいのキスもいつも通り甘かった。思わずえへへ、と流されそうになるが、いかんいかん。だめだ。だめだ。暇な時間ほど辛いものはないのだ。







突然の吐き気に襲われ妊娠が発覚したのはそれから数日後のことだった。「家で大人しくしてろよ」なんて心底嬉しそうに、大量のマタニティグッズとともに言われた日には負けたと思った。

「双子だって。どうしよう赤司」
「これから騒がしくなるな」





妊娠発覚
(私、ちゃんと育てられるかな)
(心配するな。僕達なら大丈夫だ)


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