黄色いカーネーション


「青峰、栄坂は?」
「さあ」
「お前だけじゃどうにもならん」

担当が村中で委員長が緑間だというから絶対に体育委員にだけはなるまいと思っていたがあっけなくジャンケンに負け今に至る。本日の体育委員のお仕事は球技大会の日程決めだった。確かにおつむの弱い俺だけじゃどうにもならん。仕方なく肩をすくめると緑間から栄坂を探してこいという命令を受けた。おし、このままサボってやる。

大体、何で俺が栄坂ごときを探しに行かなきゃいけねーんだ。赤司にでも行かせとけ。けっ。

(栄坂なんてあんなアホ面してるくせに赤司とはあんなに激しいキキ、キ…キスしてるし、赤司だって僕真面目ですみたいな顔しといて超がっついてたじゃねーか。これからどう接していけばいいのかわかんねーよ。出来ることなら少し距離おきてーんだ)

本音はそこだ。

「栄坂先輩に赤司先輩は、勿体無いと思います!」

廊下を歩いているとそんな大声が聞こえてきたので咄嗟に物陰に隠れた。見ると、栄坂と誰かが話していた。ちょっと待て。あの顔、見覚えが…思い出した、赤司のおっかけの一人だ。

「このままじゃ、栄坂先輩はいつか赤司先輩の足を引っ張ると思います!」

(おお…)

先輩にも物怖じしないその子の、キッと栄坂を睨みつける目には完全なる敵意があった。

だが、栄坂はそれに屈する女ではないことを俺は知っていた。

大人しいのは赤司の前だけで、怒った栄坂は手が付けられないというのはあまりにも有名な話。今にも凄まじい口喧嘩が始まるんじゃないかとひやひやする。

「…うん。そうだね」

(…あれ?)

後輩も少し拍子抜けしたようだった。あっさりと肯定した栄坂の表情はここからじゃ見えないが、自信を喪失しているわけではなさそうだった。

(まあ、先日のあれの後に自信をなくしてたらさすがに何かあったと心配するが)

「じゃあ…別れて下さい!」
「それはイヤ」
「な、何でですか!」
「それ、言わなくちゃダメ?」

栄坂はめんどくさそうに言った。

「そんなの納得いきません!」

後輩は一人でヒートアップしていくが、栄坂は冷静だ。栄坂がつーんとしているのが気に入らないらしく、ついに後輩は辛辣な言葉をも吐き出した。それが栄坂の興味を引くためだけだと分かっているからなのか、栄坂は聞き流している。

(…慣れてる?)

どんな言葉も栄坂の意志を曲げることは出来ないとわかると、後輩はとっておきの捨て台詞を吐いた。

「きっと赤司先輩が優し過ぎて栄坂先輩を放っておけないだけなんだ!栄坂先輩のお兄さんは亡くなられたって聞きました!極度のブラコンだったことも!栄坂先輩は赤司先輩が好きなんじゃなくて、赤司先輩をお兄さんに重ねているんだけなんです!そんなの、依存されてる赤司先輩がかわいそっ…きゃ!」

最後まで言えなかったのは栄坂が手を上げかけたからだ。すんでのところで思いとどまった栄坂は、はあー、はあーと深く深呼吸を繰り返す。肩が大きく上下する。

「っごめん…!」
「きょ、凶暴女!」

ドン!後輩が栄坂をど突いた。栄坂はよろめいてから、へたりと地べたに座り込む。

「図星だからって暴力を奮うなんて!こんな人じゃ赤司先輩はやっぱり可哀相です。これ以上赤司先輩を傷つけたら、私は先輩のことを一生恨みます!」

そう吐き捨て、座り込んだ栄坂を残して走り去って行く後輩。栄坂はへたりこんだまま、下を向いたまま、動かなくなった。





気がついたら、体が勝手に動いていた。
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