進む君を憂う僕
「真太郎ー!絵書いたの。見て!」
「パンダか?」
「……馬鹿真」
「…クマ?」
「真太郎なんか嫌い」
ぷいっと横を向いてしまった。仕方がないのでヒントをねだる。
「じゃあこうしたら馬鹿真でも分かるかな?バスケットボールを持たせて、ユニフォームを着せます」
不器用なまなの絵は当てにならない。ボールとユニフォームという言葉から連想した。
「…もしかして俺か?」
「ぶぶー!」
惜しい!と言われたが、なぜか少し恥ずかしい気分に。「じゃあ大ヒントだよ。出血大サービスだ」そう言いながらまなは拙い字でユニフォームに桐皇学園と書き加える。
(ああ、そうか)
これならもう外さない。
「…お前のお兄さんか」
「正解っ」
「お兄ちゃーん、見て!」
「おー可愛いパンダだな!」
「……」
「まな?」
「…うん!パンダ、上手でしょ?」
ふふふっと笑うまな。
俺はまなの兄に何か言ってやろうかと思ったが、
「…次はもっと上手に書くね!」
そう言うまなの目を見て、口をつぐむ。
そう言えば、こんなこともあった。
「お兄ちゃんの彼女が憎くて憎くて仕方ない。どうしよう、真太郎」
「…どうしようってどうしようもないのだよ」
「お兄ちゃんに、まなにもいずれそういう人が出来るよって言われたけどそんなの有り得ないよね。だって私、お兄ちゃん以外の男は全員ゴボウに見えるもの」
「それは俺もか」
「真太郎は特別。大根に見えるよ。色白だから」
(…反応に困るのだよ)
ちゅんちゅん。
「……?」
目が覚めるとまなの家だった。寝ぼけた頭で記憶を探ると、材料の買い出しや青峰の迎えに奔走させられた昨日を思い出した。どうやらあのまま泊まってしまったらしい。
「きゃー遅刻する!」
「目覚まし止めたの誰だよ!」
「お前だよ!」
なんて騒がしい声が下の階から聞こえてくる。
(みんな…いるのか)
はあ、と小さく溜め息ついてから、眼鏡を探し始めた。
さあ。
ここで最近の俺について一言。
気味悪がられているのも知ってるし、柄じゃないことももちろん承知。
だけど心配だから仕方ない。
久しぶりに見た昔の夢が与えてくれたのは、決して懐かしさだけじゃなかった。
「緑間あ!いい加減起きろー!」
怒号のような声が下から聞こえてきて、
「…うるさいのだよ、栄坂」
そう呟いた後、
変わってしまった関係を少しだけ悔やむ。
戻れないことなど、知っている。