(※52話の前)


「お兄ちゃんが負けるなんて…まなすごく悔しい。むかつくから、ここにガム貼り付けといたろ」と椅子の裏にぺちょりと貼り付けていたそれは、何時の間にかもうなくなっていた。何年も前の話だ。あのときと同じように、私は今、大事な人の晴れ舞台をここに観に来ている。

「まなちゃん…何やってんの?」
「はっ!高尾君いつの間に!」

慌てて椅子の下から顔を出すと、じとーっとした目で私を見る高尾君。なんということだ、この目は完全に不審者を見る目ではないか。

「あははちょっとね!」
「…ふーん?」
「つ、遂に決勝戦だね楽しみだなあ!」

昨日は興奮して寝れなかったよ!なんて場を取り直そうと必死な私に高尾君は「まなちゃん、目赤いよ」と一言。

「え?」
「椅子の下なんか潜ってるからだろ。埃でも入った?」

ほい、と目薬を渡された。

(高尾君、なんてデキる男なの…!)

と、感動せずにはいられない。だがしかしこの目は埃などではなくて、昨日こち亀の人と大喧嘩した末の結果なのだが、これは言わないでおこう。

目薬をさすとスウッとした。ありがとう、と返した。御礼にこち亀の人のアホな写真でも見せてあげようかと思ったが、昨日怒りに任せて全消去したのを思い出した。

「てゆか、まなちゃん、」
「ん?」
「…彼氏いたのね」
「うん」

あの人だよあの赤い髪の、と教えてあげようとしたとき、

「あーもー!!帝光の4番だろ?!何なんだよほんとにさー!」

だんだんだんだん、突然高尾君が暴れ出した。「彼女もいてバスケも上手いとか!嘘だろ?だって俺は三年間ずっとバスケしてたぜ?彼女も作らずに!なのに俺は観客席!あいつはコート!ああもう!何なんだよほんとにさ!」と叫び出した高尾君に(え、)とどん引きせずにはいられない。しかも、なかなかじっとしてくれない。

「…周りの目、気にならない?恥ずかしいからやめなよ」
「椅子の下に潜ってた人に言われたくないね!……ああくそ!絶対高校で倒す!」

何が彼をここまで燃やすのだろうか。と不思議だが、「…ほ、ほら試合始まるよ?」と急かせば「ふん!」と鼻を鳴らしながらも、何だかんだ真剣な目になって整列する選手たちを見つめる高尾君。それが何とも可愛くて、思わず笑ってしまいそうになる。

高尾君って本当にバスケが好きだよね。

でも言わない。拗ねちゃいそうだから。私の中でとどめておこう。







実は、今日、赤司からメールが着た。

みなさんご存知の通り、あの赤司君はあまりメールが得意ではないので、絵文字も何もない一言用件のみを書いた何とも素っ気ないものだったが、その内容に私は宇宙に飛び立つかと思った。


君に優勝をプレゼントしよう。


(…何てキザで恥ずかしいやつだ…!)と思いながらも、マッハの速さでそのメールを保護した私。それからはあまりの浮かれ具合に、朝から階段から転げ落ちる羽目になったが、こんなの痛くも痒くもない。だって、それこそ、宇宙に飛び立つほどに嬉しかったのだから。



(まだ勝てると決まったわけじゃないのにどんだけ自信家ですかって感じだよねー)

(…でも、)

(赤司なら、本当に優勝しちゃうんだろうなあ)



それに赤司は一人じゃない。

これはもうチートだろと思うようなコピーを見せてくれる黄瀬もいるし、ダルイダルイ言いながらも負けず嫌いだからピンチになった時に頼りになるむっちゃんもいる。こち亀の人も、昨日の大喧嘩なんてこれっぽちも気にすることなくあのわけわからんシュートを打ちまくるんだろう。黒子だって最近はどうも機嫌が悪かったが絶対勝ちたいに決まってる。アホ峰について言うことは、特に何もない。



(…本当にすごい人たちだよ)

(…ふふふ!)



何だかんだ、優勝した彼らにかける言葉も、むっちゃんに至ってはお祝いのお菓子まで、試合が始まる前から全て用意している自分がいる。


何も疑うことなく彼らを信じてる、自分がいる。


「…頑張れ!」


コート内の赤司と目が合った。あーあ、本当に格好良い、よ!



君が王様になる日

(私はそれを見届けるの)



さあ試合開始だ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -