※R15


傘も差さずに濡れながら歩いている小さな背中が見えたので。俺は嬉しくなって駆け寄った。

「…っまな!」

よっ!濡れんだろ!何してんの!と驚かすつもりはなかったのだが、まなは大袈裟にビクンと震え、持っていた紙袋を全て地面に落とした。溢れ出る中身。…アフターピル…?

「っ…!見ないで!」

絶句する俺から隠すようにまなはそれらをかき集めた。

「…何それ、おい」
「な、何でもない」

ガタガタと震えて俺を見ている。は?何これ、何?

まなの方へ手を伸ばすと「嫌!」あからさまに怖がった。触れると「っやめて!」その震えはさらに大きくなって。

「…何があった?」
「…………何もない」
「何で隠す?」
「…………隠してない」
「おい!」
「きゃっ!」

やばい、俺も必死になっている。

「いやだ…いやだ…いやだ」

震える身体を無理やり近くに寄せると、ふわり、雨の中でも分かる嫌な匂いがした。男の性の匂い。髪の毛を手に取ってみる。絡まっている。白い塊の付着を発見、

跳ねる心臓と燃え上がるような怒り。が、対照的に頭は冷静に冷えていく。

「…誰?お前にこんなことしたやつ?」

ふるふると頭を振って答えない。首筋に傷跡も発見した。制服もよく見れば所々破れている。嫌がる手を取ってみた。ミミズ張れ。縛られたのか。

その時、ちょうどまなの携帯が鳴った。「あっ…やめて!見ないで!」嫌がるのを無視して受信したメールを開く。

これバラまかれたくなかったら、明日からよろしくね

と無慈悲な文字の羅列の下には写真の添付が。

「見ないで、やだ青峰、見ないで…!」
「見なきゃわかんねーだろ」
「イヤア!」

まなが発狂したが如く泣き叫ぶのと、俺の中にとんでもない後悔が溢れ出すのは同時だった。

「…ごめんな」

抱きしめた。少しでも一人にしたことを後悔した。こんな小さな身体が先程受けてきた暴行の数々。

「俺、あいつら殺してくるわ」
「だめ、だめだめだめ」
「何で?」
「…青峰負けちゃう」
「負けねーよ」
「だって、五人対一人、」
「五人?お前、五人も…!」

写真には男二人しか写っていなかった。五人も相手したのか。それを俺に知られたことがショックだったらしいまなは、再び発狂し出した。

「っ…いやだいやだいやだやっぱり死ねば良かった、死ねば良かった、死にたい死にたい死にたい」

抱きしめた。気持ちはわかるが死ぬなと頼んだ。頼むから死なないでくれと懇願した。気を紛らわすために様々な夢物語を語った。学校やめよう。二人で海外に行こう。何もかも投げ出そう。全部忘れて新しく生きよう。な、その前に、警察に行こう。

「…あ、あ…やだ、やだやだやだ…オェッ…!」

まなは吐いた。もう散々吐いた後なのか胃液しか出なかった。

「…警察、いや、いやだ、学校中に知られちゃう、」
「わかった、わかったから」

背中をさすった。それしか出来なかった。翌日、まなは行方不明になった。


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