ここはどこだ。草むらだ。いや、それは見れば分かる。どこの草むらだ。どうして俺はこんなところにいる。何があった。ここはどこだ。東京にこんな場所あったか。横を見るとまなは寝ている、というか伸びている。風邪予防のためのマスクが呼吸しにくそうだったから剥いでやった。

「…ふあっ…何してんの」
「気がついたか、」
「あれ、緑間…?きゃ!やん!」
「…どうした…?」
「触んないで!何か、痺れる…」

栄坂は慎重に体を起こそうとした。が、上手くいかないらしい。「っ…!」助けてやろうと肩に手を触れると、「きゃんっ!やっ!……だから触らないでって言ってるでしょ!!……おい吐きそうな顔すんな!私だって上げたくてこんな声上げてるんじゃない!」と顔を真っ赤にして怒られた。どうやら相当に体が痺れているらしい。

(…触れるなと言われたら仕方がない)

黙ってそれを見ているしかない。栄坂はたどたどしくもゆっくりと身体を起こしていく。起こしていくに連れて、その顔は何故か大きく歪んできた。

「…い、イヤアアア!やっぱり!やっぱり!なんかネチョネチョすると思った!イヤアアア!キャアアアアアア!」
「うるさい、騒ぐな、何があった…うわっ!」

栄坂は"何か"をその背中で押しつぶしていた。"何か"とは何かの動物のようだが今までに見たことがなかった。オレンジ色で大きなきのこがついている。なんだ、これは。動物というより、虫か。

とにもかくにもその"何か"は内臓や体液を撒き散らしながらペッタンコに栄坂に押しつぶされていた。とてつもなくグロテスクである。当の栄坂は発狂している。そしてどうしようもないと分かると今度はすんすんと泣き始めた。女子にとって背中で虫を潰すという行為がどれほどのものに値するかは想像できないが、俺が栄坂の立場だったら…とかは考えたくもない。

「……しんたろ、助けて、ぐすん、」
「…助けてって…」

言われても。



結局、その後は散々だった。ここがどこかも分からないままな上、栄坂は泣き喚いていて煩い。取り合えずこれを着ろと俺の上着を貸してやった。そして栄坂が着替えている最中、先ほどの"何か"の母親と見られる大型の”何か”が登場。押しつぶされた我が子を見て怒り狂った"何か"が俺たち二人に向かって"何か粉末状のもの"を噴射。うわっと思った瞬間、体中が痺れ着替え中の栄坂の上に覆いかぶさるように倒れてしまった。

「きゃあっ!変態!赤司呼ぶぞこら!」
「ああ呼んでくれ!出来る事なら!」

(コイツ俺が全部粉を被ってやったからお前は無事でいるというのに変態呼ばわりするか…!)

そう怒りながらも栄坂の柔らかな膨らみに顔を埋めていた。(仕方ないだろう、身体が動かないのだから!)そこで漸く栄坂もこの緊急事態に気がついたらしい。立派な爪を出しながら突進してくるその"何か"。「ひぃいいい!」まずは俺を除けようともがくが栄坂の力では俺を動かすことは難しい。赤司助けろ…!と思わず俺もこの場にいない同級生の姿を願った。

「…ピカチュウ!十万ボルト!」

と、突如現れた救世主によって何とか難を逃れた俺たちだった。その救世主の名はサトシといい、十万ボルトというトンデモ電撃を疲労してくれた黄色のネズミはピカチュウというらしい。栄坂は呆気に取られながらも「でぇええええ!ポケモンじゃねーか!なぜなしてどうして!」と騒いでいたが俺はデジモン派だったのでよく分からない。よく分からないがどうやらポケモンの世界にトリップしたということらしい、多分。ああくそ。死にたい。

サトシは栄坂のブラ姿に頬を染めた。こんな絶壁に反応するくらいだからそれくらいの年齢のガキなのだろう。栄坂が気がついたように俺の上着を羽織ったので、それからはちゃんと目を見て話してくれるようになった。先ほどの"何か"はパラセクトとかいうむしポケモンらしい。そして先ほどの"何か粉末状のもの"はしびれごなという技らしい。先ほど栄坂の身体が痺れていたのもパラセクトの体液にしびれごなの成分が混ざっていたからだろうとのこと。野生のポケモンの技なのであまり強力でないし命に別状もないだろうから大丈夫ですとまで親切にも教えてくれた。さらに、

「最近、ここらは物騒だから気をつけてください。ひどいトレーナーがいるらしくて」

とまで話してくれた。近くの町までの簡易地図と少しのお金、そして何かあったらいけないからと適当なポケモンを捕まえて恵んでくれたので俺は初対面ではあるがサトシの事が好きになった。栄坂が発狂して喜んでいるあたり、サトシが捕まえてくれたポケモンはイシツブテ…?イシデブツ…?とかいう、そういう種類のそれらしい。デジモン派の俺にはサッパリ。

サトシは用があるとかで再び旅に出てしまったのでまた栄坂と二人きりだ。これからどうするかなど考えなくてはいけないというのにこいつは「イシツブテちゅわああん…らぶらぶちゅっちゅ!」と何やら手の生えた石ころに夢中なので困る。因みに俺には全く可愛さがわからない。寧ろ気持ち悪い。ゴツい。イカツイ。そして抱き心地がとてつもなく悪い。

メロメロ状態に陥り役に立たない栄坂を引きずって何とか宿まで辿り着いた俺は、取り合えず一室を借りて夜を明かした。その部屋にはベッドが一つしかなく、「一緒に寝る?ししし」なんてからかってきたからその日は無視した。(一緒に寝ようものなら赤司に消されることを分かってて言ってくる)俺は冷たい床に寝た。栄坂はモンスターボールからイシツブテを出して一緒に寝ていた。翌朝、寝相と重みに耐えきれずベッドが壊れていた。賠償金を払わねばならんことになった。

この世界でお金を稼ぐためにはポケモンバトルというものをしなければならないらしい。勝つとお金がもらえるが負けると目の前が真っ白になるらしい。よくわからないが取り合えず物は試しということで、町の外を歩く。栄坂はウキウキしている。誰のせいで賠償金を払う羽目になったのかなんてちっとも気にしていないようだ。栄坂はご機嫌にイシツブテを抱きながらいろんなことを語ってくれる。重いならボールに入れればいいのに無理して手に抱くから汗ダクダクで呼吸もヒューヒュー言っている。でも気にならないらしい。俺は別に栄坂が辛い辛くないはどうでもいいのだが、「お前の歩幅に合わせるこっちの身にもなれ。いいからボールにしまえ」と叱ってもこいつは幸せそうに笑うだけだ。

今までになく楽しげな栄坂はデジモン派の俺に対してさまざまなことを教えてくれた。サトシは"十年間旅をしてもポケモンマスターになれないばかりか、いしタイプにでんきタイプのピカチュウぶつけちゃうような頭の弱い少年"らしい。ピカチュウは"どれだけ強くなっても新しい地方に飛ぶ度にレベルがリセットされるご都合主義生物"らしい。なるほど。

そんなこんなで歩いていると「…ポケモンは俺の相棒!」と何やら急に叫びだした少年がいた。どの世界にも一定の割合で頭のおかしい人がいるもんだと思って気にする事なく歩いていると何とその少年は此方に近付いてくるではないか。「真太郎、短パン小僧のショウタとのポケモン勝負始まるっぽいよ!」まじか。なぜだ。

「いけっ!ナゾノクサ!」
「きゃあああ!何ということ!だめ!だめよ!イシツブテちゃんにナゾノクサはだめ!いしタイプにくさタイプはだめ!真太郎どうしよう!」
「そんなこと言われたって、俺はデジモン派だから、」
「ナゾノクサ、ギガドレイン!」
「イシツブテちゃんんんんん!」

俺たちは目の前が真っ白になった。


(続く)


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