「やあ▽」
「(絶句)」

なんということだ。ここはもしかしてもしかするとグリードアイランドとかいうところではないかね?私の記憶が間違いでなければ目の前で全裸で水浴びしているのはかの有名なヒソカさんではないかね?隣の青峰も絶句している。それもそうだ、急に目の前に変態が現れたのだから。

「ヒ、ヒソカ!」
「どうして僕の名前知ってるのかな▽」
「(いやでもあり得ないよな青峰と二人で歩いてただけだもん急にハンタ世界にトリップするなんていやいやさすがにあり得ないよ、よってこれは夢である)」
「僕の質問に答えろ▽」

ビッ!

「…ひっ!」

頬の横を鋼鉄のトランプが通り過ぎていった。生暖かい血がツーッと垂れる。アイター!夢じゃなーい!そして血ぃー!私の苦手な血ぃいい!

「良い声で鳴くねェ…▽」

ぐぐぐ…と、そしてあの描写である。

「(絶句)」

青峰はヒソカのあまりの変態ぶりに、…キメエ!と声をあげかけた。私が咄嗟にその口を塞がなければ、ヒソカのその鋼鉄のカードは青峰の喉元を切り裂いていたかもしれない。

「黙って!刺激しちゃだめ!相手は変態でゲイ寄りのバイで殺人狂なんだから!」
「なかなかひどい言われようだな▽」

おっと塞ぐのは自分の口の方だったか、とサアッと血の気が引いたところでもう遅い。仕方がない背に腹はかえられないということでいよいよ最後の手段を使うことにした。これぞ見よ、我が栄坂家伝統の秘技、邪王猟竜鵠炎臨氷渺闇隠れ身の術…!

「念も使えない子供がどうしてこんなところにいるのかな▽ちなみに女の子の方、死んだふりしても無駄だよ▽」





異世界トリップとやらに遭遇してしまって、もうすぐ二週間になる。あれから何故かヒソカに気に入られ、青峰と二人ヒソカのもとにお世話になることになった。(ひぃい、恐ろしい…!)脳天気青峰はまあ何とかなるんじゃねという思考の下、いつの間にかヒソカに弟子入りを果たしていた。なんということだ。私はいつ殺されるのか分からないという不安でいっぱいだというのに。

コンクリートで彩られた超高度文明を生きる私たち。だがやっぱり根は野生児というのだろうか。男の子の青峰は瞬く間にこの世界に順応していった。ヒソカに連れられ旅をするのが楽しくて仕方ないらしく、毎日傷だらけになって帰ってきては武勇伝を語ってくれる。反対に、ヒソカの家でお留守番ばかりしている私はいつまで経ってもこの世界に慣れる事はないだろう。今にもアリが攻めて来やしないか、この世界特有のキチガイの餌食になってしまわないかと身に心が削られる思いである。

赤司のいるあの世界に早く戻りたい。赤司に会いたい。赤司は私をきっと私を心配している。どうにか戻る方法はないかと思案ばかりしているが、そう都合良く手掛かりなど見つかりそうになく溜め息を吐くしかない。

ヒソカは異世界トリップをした私たちが珍しいらしく、「新しい玩具が手に入って良かったよ▽頼むから僕を飽きさせないでおくれよ▽」と意味深に怖い台詞を残してくれたおかげで私は毎日ガクブルでヒソカの料理人かつ掃除係かつ話相手という役割を担っている。ヒソカから逃げ出すなんて以ての外なので、せめてヒソカのゴミにならないようにとせっせと働く毎日だ。

そんな私とは対照的に、呑気に弟子入りなどした青峰はヒソカの指導の下素晴らしい成長を遂げているようで。

「クックック▽筋がいいね▽理屈じゃなくて感覚で動いているあたり好感が持てる▽きっと良い暗殺者になるよ」
「…そうですか」

暗殺者、だなんて。

青峰が青い果実認定された。その報告を直に聞く辛さが君たちには分かるだろうか。





欲しいものがあったら奪い取る、邪魔者はすぐさま排除、ただしたまに遊ばせるのはあり。そんなヒソカと日中ずっと一緒にいる青峰は多大なる影響を受けているようで。

今日なんか、ヒソカに連れられて人を殺してきたと自慢気に語られてしまった。

「意外と簡単なのな」
「……そう、なの」
「あ?何だその顔。不満か?仕方ねーだろ、殺さなきゃ殺されてたし」

人を殺した痛みなど何も感じてないように青峰は言い放った。とても悲しくなった。

きっと世界が違うのだ。赤司のいるあのあたたかい世界とこことではきっと善悪の基準がまた違うのだ。人を殺すなんてこの世界じゃきっと普通のことなのだ。青峰を非難する理由なんてどこにもない。分かっている。分かれ、私。

「明日は旅団とかいう集団に会わせてくれるってよ。結構なイカれた奴ららしくて今から楽しみだぜ。あ、お前も来る?」
「行かない…。それに、出来ることなら…行ってほしくない」

思わずそう言ったのは、深い傷跡を見ていられなくなったからだ。今日、ターゲットと殺り合った時に出来たものらしい。ザックリと切れていて、血がなかなか止まらない。当の本人は興奮状態故に、全く痛みを感じていないのがさらに私を心配にさせる。

「は?何?もしかして俺が心配なわけ?」
「っ…!当たり前でしょ!」
「まじで?…ふーん」

ニヤニヤと青峰は笑う。

「お前が俺を心配するなんてなあ」

ニヤニヤニヤニヤしている。

「し、心配だよ!こんなに酷い傷作ってるのに!もし死んだらどうすんの!」
「多分死なねーよ」
「どこから来るのその自信は!」
「だーいじょうぶだって」
「もう!青峰!」
「だあー!うるせーな!」
「ぅぐっ!」

口を大きな手で塞がれた。睨みつけると低い声で返される。

「何だよ?あ?文句あっか?」
「…むぐぐ…!(離せガングロ)」
「…あ?」
「…む!(文句大有りに決まってんだろ!)」
「…なあ、もし本当に俺に行ってほしくないのなら、お前から俺にキスしろ」
「!?」
「簡単だろ?」

それくらいやって貰わなきゃお前の気持ち伝わんねーし?とこのガングロはほざく。ほら、と口を塞がれていた手がなくなる。数秒、迷った。ごめん赤司。私は青峰に死んでほしくない。

「はっ!まじでお前、俺が心配なんだな!」
「うるさい最低こんなことさせるなんて」

青峰は満足そうだ。

「君も罪な子だねえ…愚かな果実は余計調子に乗ってユラユラ揺れるだろうに▽」

ヒソカは笑っている。





「もう!行かないって言ったのに何で行ったの!ほらまたこんなに傷作って!前のもまだ完治していないのに…!」
「わりぃわりぃ」

全然悪びれてない。

「もう…、もし死んだらどうするの、青峰がいなくなったら私はどうすればいいの?」

この世界に一人残されてしまったら私はどうすればいい。ヒソカと二人じゃいつか捨てられる未来しか見えない。

「うわ、お前、それ言う?なんだ、お前、結局自分の事しか考えてねーんじゃん。あれも俺の心配じゃなくて自分の心配だったのかよ」
「なっ!違うよ!どうしてそうとしか思えないの!」

声を荒げた私に青峰はうるさそうに手を払う仕草をした。

「青峰!私は本当に青峰が心配で!」
「わあーった、わかってるよ!」
「もう!全然わかってない!」
「うるせーな!!」

怒鳴られてびくんと震える。この世界に来てから青峰は変わってしまった。ヒソカの影響だろうか。暴力的になった。乱暴になった。それが私にはとても悲しく感じられる。

「……わり。でも楽しーんだよ。あっちで部活から逃げてるより今のが何倍も楽しーんだ」
「………」

私は何も答えられなかった。

「……そんなに俺が心配か」

こくん、と頷く。

「そうか、じゃあ。赤司なんかもういらないって言え。言ったらお前の傍から離れねえと約束する」

思わず耳を疑った。

「…それに赤司と何が関係あるの?」
「別にねーよ?ただお前がどれくらい本気なのか知りてーだけ」
「はあ!?意味わかんない!………それにだって、青峰、約束しても、どうせ絶対破るしっ」
「今度は破らねえから。なあ、言えよ。赤司なんかいりませんって」

まるで促されるように頬に添えられた手を拒んだ。それがいけなかったらしく、今度は無理矢理に顎を掴まれキスされた。舌が入ってくる。噛もうとして、やめた。出来なかった、青峰が、怖い。


さあ、どうする?

ピエロは向こう側で笑っている。






(結果なんて見えているのに)




「…ほら、言えよ」

言わないと、いけないの?こんなの、半ば無理矢理、半ば無理矢理、半ば無理矢理、なのに。こんなこと許されては、いけない、はずなのに。もう嫌だ。もう嫌だ。こんな青峰に、私が構ってやる必要などない。もう嫌だ。私はキッと青峰を見上げてちゃんと私の意志を伝えた。青峰の目に突発的な怒りが宿る。チッと舌打ちをされた。

「ああそうかよ。…もうお前なんか知らねえ」

それなのに、そう言うのに、どうして青峰は私を押し倒すのだろうか。どうして乱暴に身体を弄るのだろうか。泣き叫んでも誰も助けてくれない。ああ、向こう側で、憎たらしいピエロが笑っている。






それは愚考、そして愚行、さらに愚考、またもや愚行。結局最後は愚者に収束。



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