アルカナ | ナノ


アルカナ

ひだまり(前編)

アルカナデュエロが終わったある日のこと。エルモたっての願いでフェリチータ、ジョーリィ、ルカの四人は、近くの森へ足を運んでいた。

「全く、何故私がこんなことに付き合わなければならない」
「それはこっちの台詞です。お嬢様との関係を私に見せびらかす為に私を誘ったとしか思えないのですが」
「勘違いするな。私だってお嬢様のお願いでなければ、お前とこうして肩を並べて歩くことなどない」

先日のアルカナデュエロで、フェリチータは思いを寄せていた人物。ジョーリィとの戦い敗れ、結果として婚約者となった。最初は自分の道すら決められないのかと、悩み苦しんだフェリチータだったが自身の父親であるモンドを助けようと、賢明に取り組んでいたジョーリィに心を動かされたのもまた事実だった。
その中で、フェリチータはジョーリィの造った人造人間のエルモと出会った。

「僕、お姉ちゃんと一緒に出かけられてすごく嬉しい!」
「私もエルモと一緒に森へ散歩にこれて嬉しいよ!」

そんな二人の会話をジ後ろからョーリィの従者であるルカは、大人気ないと分かっていながら、エルモに嫉妬に似たような感情を抱いていた。ジョーリィは自分の婚約者が、ルカは自分のお嬢様があんな子供に――と。

「私のお嬢様がっ……」
「何を嘆く必要がある。お前はファミリーの中で一番多くの時間をお嬢様と共に過ごしてきたのだろう。時間で言えばお前に勝る人間などスミレ以外にいない」
「まぁ、そうですけど……って私は過去ではなく今の事を言っているんです!」

一方のフェリチータも後ろから聞こえてくる親子の会話に苦笑いを浮かべていた。
自分がジョーリィの婚約者となってしまった事が幸いしたのか、ジョーリィとルカの関係がほんの少しだけ変わったように感じていた。それは悪い意味ではなく、良い意味で変わったとフェリチータは確信していた。だから、こうしてこの散歩にルカを誘って欲しいとジョーリィに頼んでみたのだが……どうしてこの二人は互いに嫌悪し合う言葉しか口に出来ないのだろう……

「あっ」

しばらくすると、一行は辺り一面に白い花が広がった場所にたどり着いた。それはまるで雪が積もったかのように綺麗で、美しい光景だった。

「わー!綺麗だねエルモ」
「うん。僕、こんなに綺麗な風景初めてだよ」

グ〜〜〜〜〜

その時エルモのお腹が空腹だと告げる音を奏でた。初めて自分の腹からなる音を聞いたエルモは、驚いてジョーリィの方を仰ぎ見る。

「そう言えば、今日は朝から何も口にさせていなかったな」
「朝から何もって、ジョーリィ。貴方人間失格ですよ」
「ジョーリィ……僕、何かの病気なの?」
「いいや、病気ではない。ただお前はお腹が空いているだけだ。安心しろ」

ジョーリィに頭を撫でながらそう言われ、エルモはそうかと安心しきった顔でフェリチータに向き直る。

「じゃぁ、此処でご飯にしようか」
「うん!」
「ルカ、お願い」

フェリチータに自分の名前を呼ばれた瞬間、ルカの表情がまるで生き返ったかのように輝く。

「任せて下さいお嬢様っ!」

持っていた籠の中からシートを取り出し、手際良く準備を始めるルカを見てフェリチータは微笑んだ。やっと自分の知っているルカが見れた。
ジョーリィがフェリチータが考案したこのピクニックへ同行するようにと声を掛けた時、ルカは「考えさせて下さい」と応え、前日まで返事をせず沈黙を守りぬいた。フェリチータはそんなルカの様子が気になり、彼を探しに食堂に行ってみると、明日のピクニックでみんなで食べる昼食の準備をしてくれていた。

「お嬢様が誘って下さったのに私が行かないわけないでしょう」

そう言ってくれフェリチータは心から喜んだ。
もし、断られたらどうしようと心のどこかで思っていたからだ。けれど、ルカはやっぱりルカだった。自分に出来ることはまだまだ少ないけれど、少しずつでいいから親子の絆を取り戻して欲しい。そう願っての行動でもあったからだ。

「エルモ。ルカの作る料理はすっごく美味しいんだよ」
「へぇーお兄ちゃん料理得意なの?」
「得意かと聞かれれば、得意ですよ」
「今度、僕にも教えてくれる?」
「もちろんです。では料理を並べるのを手伝ってもらえますか」
「うん!」

シートの上にはサンドイッチにラザニア、ピザにドリアなどが並べられていた。また食後のおやつとして、リモーネパイドルチェが用意されていた。
ルカの相手の事を考えて行動してくれる心遣いは、見習わなければならない。小さいころから傍にいることが当たり前だったが、こうしてほんの少し立場が変わったことで今まで見えていなかったことや、気が付かなかったルカの行動力に気付けるようになった。

「わーーー!!」
「紅茶も用意しているので、いっぱい食べて下さいね」
「うん!ルカありがとう」
「お嬢様にそう言って頂けて光栄です!!」
「では、頂こうか。今日この日にサル―テ」
「「サル―テ!」」

ルカが用意してくれた料理は瞬く間に無くなり、大盛況だった。大の大人が三人と育ちざかりの子供がいれば、全て平らげるなど朝飯前だった。
いつかファミリー皆と出掛けて、こうやって青空の下で食事をしてみたいとフェリチータは心の中でそう思った。

「では口直しに紅茶の用意をしますね。お嬢様、待っていて下さい」
「お兄ちゃん。僕もお手伝いしてもいい?」
「はい。是非手伝って下さい」
「うん―!」

少し離れたところでお茶の準備をするルカと、それを手伝うエルモの姿を見てフェリチータが笑みを零す。

「ああしてると、ルカとエルモって兄弟みたいだね」
「あぁ、確かにそう見えないことはないな」
「……ジョーリィ、もしかして怒ってる?」
「何故そう思う」
「だって、せっかくこうしてピクニックに来たのに……あまり話してくれないから…」

フェリチータは自身が感じていたことを、そのまま言葉として露わした。元々ジョーリィは人付き合いが良い方ではない。それはファミリー全員が認識している。自分に対しては心持ち優しく接してくれるようになったが、相手が他の人となれば話は別だ。

「安心しろ。私は怒ってなどいない。ただ嫉妬しているだけだ」
「嫉妬?」
「フェル、お前を独り占めできないことにな」
「えっ――」

自身の顔が一気に赤面したことを、フェリチータはジョーリィに指摘されるまで気が付かなかった。ジョーリィにそんなことを言われると思っていなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
休みの日も含め、ジョーリィとフェリチータは二人で過ごす時間が多くなった。しかし、時間が多くなったからといってジョーリィの態度は以前とあまり変わらない。しかし、こうして不意打ちとばかりにそのようなことを囁かれると、嬉しいのと同時に恥ずかしいという感情が込み上げてくる。

「お待たせしました。淹れたてですので、気を付けて飲んで下さい――ん?お嬢様、顔が赤いようですがどうされたんですか?」
「えっ!?何でもないのっ、何でも……」
「まさかジョーリィに何か変なことを言われたのですか!?」
「だったらどうする。それ以前にお嬢様は私の婚約者だ。何を言おうがお前には関係ないだろう」
「ッ――!!どうせ私は関係ないですよ。お嬢様の従者である私には………」

まるで大人の皮を被った子供を見ているようだ。ルカはフェリチータ絡みだと、大人気ない行動を取ることが多々ある。それはファミリー全員は勿論、フェリチータ自身も認識している。ファミリーの中で、別の意味で一番成長しなければならなかったのは、ルカだったのかもしれない。

「ふふっ」

急にエルモが声をだして笑い出した。ルカの言動に対して笑ったのだろうか。

「どうしたエルモ。急に笑ったりして」
「うん。なんだか僕達家族みたいだなーって」

想像もしていなかった言葉がエルモから発せられ、その場にいた三人の表情が驚きで彩られる。





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