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熱と×××(前半)

体が熱く、頭がガンガンし体が重い。
八田美咲はらしくない風邪を拗らせ、ここ数日ずっとベットに寝込んでいた。ただ温かくして寝ていれば治ると思っていたのだが、寝込み始めて今日で三日。未だ熱が下がる気配がない。薬を買いに行こうかと思ったが、立ち上がるだけで目眩がする最低最悪のコンディションなので諦めていた。

「ったく、なんて情けねぇんだよっ……」

風邪を拗らせた理由は、間違いなく自分の不摂生が原因だ。何処にも当てることのできない苛立ちが美咲を襲っていた。
その刹那。寝室とリビングを繋ぐ扉が開かれ、熱で意識が朦朧としている美咲の視界に何か青い物体が映る。

ついに幻覚まで見えてきやがったか……?いや、それともこれは夢か?
重くてだるい体を起こし、青い物体の正体を知る為、目を凝らす。しかしその青い物体はどんどん此方へと迫ってくる。

「はいっ、あーーーん」

青い物体から発せられた聞き慣れた声に、美咲は声を上げた。

「猿比古っ!!テメッ……痛っ……」

自分自身が上げた声が頭に響き、美咲は思わず苦痛の声を漏らす。なんで猿が此処にいんだよっ……!

「ったく、熱があるってのに大声なんか出すからだ。本当バカだよな。まっ、とりあえず粥作ってやったから……ほら、あーんしな」

ゾワッ――!!

背筋に何かが走り抜けたような気持悪い感覚が美咲を襲う。

「気持悪いんだよっ……!!」
「ん?口移しの方がいいか?」
「……んなわけねーだろっ!!んなことしたら手前、風邪うつるぞ」

猿に風邪がうつろうが知ったこっちゃないが、猿から他の人に感染してしまったらどうも後味が悪い。

「……どうせ寝てれば治るとか思って、ちゃんとした食事もとってないんだろ」
「……」

図星すぎて、何も言い返すことが出来ない。ってか寝てるだけじゃ治らない事をこの年になって、猿に教えられるなんて……

「取りあえず、さっきも言ったが粥作ったから食べて薬飲んで寝な。俺は向こうにいるから、食べ終わったら呼べ」

そう言い残すとベットの横に粥と薬が並ぶトレイを置き、伏見は寝室から姿を消した。
本来なら「猿が作った物なんて食えるかっ!!」と声をあげ、投げ飛ばしたいところだが、状況が状況だけに美咲は思い留まった。

「…………」

本調子になったら今回の借りを含めて、まとめて返せばいい。そう自分に言い聞かせ、美咲は器を手に取り口元に粥を運んだ。




人が熱を出す理由は2つある。1つには、ウイルスは熱に弱く、発熱によってウイルスの増殖を防ぐため。2つめにまウイルスを退治しようとする白血球の動きが活発になるから。
ウイルスを人間の敵として例えるなら、ウイルスが体内に侵入すると、まず体温を調節しようとする。敵の力が弱いので、38℃まで体温を上げれば退治できるだろうと身体が判断し、設定温度が決まる。そして体は体温を上昇させていこうと発熱させる。
簡単に言うなら身体に入った菌を熱で殺すために、身体は熱を出す。
これが人が熱を出す理由だ。

今まさにこれと同じことが美咲の体の中で起ってるってことだ。取り敢えずちゃんと食事を取らせて、薬を飲ませて寝かせることが自然治癒力を上昇させ熱を出させることが手っ取り早い。
そんなことを考えていた時、リビングと寝室を繋ぐ扉がゆっくりと開かれた。そこには両手に先程伏見が用意したトレイを持った美咲の姿があった。

「どうした?」
「えっ、いや……そのっ……」

美咲の手にあるトレイに視線を移す。どうやら食欲はあるようで、器の中は全て空っぽになっていた。

「礼なら完全に治ってから言え」
「だっ、誰が礼なんてっ…!」
「ならさっさと薬飲んで寝ろ」
「く、薬なんかに頼らなくても治る」

美咲のその一言に中学時代の記憶が蘇ってくる。確かコイツ……

「美咲」
「何だよ」
「お前確か……薬は苦くて変な味がするからって嫌いだって言ってたよな」
「……」

図星。とばかりに無言の返事が返ってくる。
そう言う自分も美咲以上に嫌いな物が多いのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
確かに粉薬は口の中で味が広がったり、咽たりして飲みにくく、好んで飲む人間は少ないだろう。

「ったく、仕方ないな」
「あ?どういう意味だよっ!」

そう言うと伏見は近くにあったペットボトルの水を口に含む。そして自身の口の中に粉薬を流し込んだかと思うと、美咲の頭を捕らえ口付けと同時に口内に一気に薬を流し込んだ。

「むぅーーーーーっ!?」
「ほら、さっさと飲み込め」

美咲が吐き出さないように、口元を手で押さえながら伏見は言う。最初は何としても口の中の物を吐き出そうと抵抗していた美咲だったが、次第にその抵抗も無くなり最後にはコクリと喉を鳴らし、全てを飲み干した。

「ゲホッ……!ゴホッ、猿っ!!手前いい度胸じゃねぇかっ……」
「こうでもしなきゃ、お前薬飲もうとしないだろ」
「フンッ……風邪うつってお前まで熱出しちまったらどうすんだよ」
「いいよ。その時は美咲に看病してもらうから」
「……言ってろ」




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