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見えない糸

人は失ってからその大切さに気付くと言う。そして失って何かを得ることが出来るとも聞く。
同じ王であり、敵であると同時に友人であった周防尊をその手に掛けた時、あの人は一体何を見て、何を思ったのだろう。

全てを終え、皆の待つ場所へ戻って来た宗像の右手は真っ赤に染まっていた。
そしてただ一言

「全て片が付きました」

と呟いた。
ダモクレスの剣が堕ちた時、その場にいた全員が、橋の向こうで何が起きたのか瞬時に理解した。
彼は自ら王を降りるような男ではない。つまり周防尊の命が尽きたのだと――

その背中からは何処か悲しく、辛そうで悔やんでいるのが感じ取れた。

「……」
「どんな最後だったんですか……尊さ……周防尊は」

伏見の言葉に宗像の動きが止まり、鋭くも儚い視線に捕らえられる。
自分でもどうしてそんな言葉が出たのか分からなかった。吠舞羅とはもう関わりのない自分が、周防尊の最後を尋ねるのは可笑しいのかもしれない。けれどその言葉が自然と出てしまった。

「彼らしい最後でしたよ」

その言葉に伏見はただ一言「そうですか……」と古傷に手を当てながら答えた。
自分の中に潜む猛獣を抑えながら、不安定な剣を扱い続けた彼の最後は容易に想像がついた。
真っ正面から宗像の剣を、受け止めたのだと。

「室長、最後に一つ聞いてもいいですか」
「………」
「室長。貴方は何を得て、何に気付いたんすか……」

伏見の問い掛けに対し、宗像は悲しい表情を向ける。そして彼の血で染まった右手で眼鏡のブリッチを押し上げ何も言わず足を進めた。

「痛っ……」

その直後、自身の手で焼き潰した吠舞羅の印が赤い光となり天へ昇って行った。
この印が消えても、周防尊が築きあげてきた絆は消えない。彼がこの世に存在していた事実も消えやしない。この一件に関わった全ての人間は、見えない糸で永遠に縛られ続ける。


END




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