其ノ距離ハ



今日は雨。

ただでも体はだるいってのに、天気までこうジメジメされては仕事する気など朝から無かった。だから昼からは土方さんと見廻りだったが途中でサボって帰ってきた。


『ちょっくら昼寝でもするかねィ』

そんな事を考えながら廊下を歩いていると。
思わず足を止めてしまった。というよりも見とれてしまったと言った方が良いか。
向こうの縁側に誰か座っている。けれどそれが誰なのかすぐに分かった。

名前だ。
少し離れた此処から見えるその姿は雨の中幻想的で、またいつも彼女がまとっている清楚な空気がこの雰囲気をより一層深めているように見える。

ゆっくり近づいてみても全然動かない。

顔を覗いて見ると、眠っていた。

「・・・無防備すぎまさァ」

近くで囁いてみるが反応は無い。 普段の彼女なら顔を真っ赤にして怒るだろうか・・・


「…名前?」

その時彼女の目から一筋涙がながれた。
その涙を見つめていると、ふと以前に名前から聞いた話を思い出した。
何度も見る夢があるのだと、それはいつも起きると内容は忘れてしまっているが、それを見た朝はひどく辛いのだと。

「また、あの夢でも見てンですかィ。」

話しかけてみるも名前は目を覚まさない。
けれど、それでも構わず話しかけた。

「あんたはいつも笑顔だけど、いつもどこかで俺達とは一線引いてる。‥もう真選組(ここ)に居るのも長いってのに。」


もう一つその時名前が教えてくれたこと、それは自分には昔の記憶が無いのだということ。それには正直その話を聞いた皆が驚いた。名前には世間一般で言われる青春時代という年頃までの記憶がポロッと無いんだ。「せめて母上の顔だけでも、思い出したいんですけどね」そう言った時の名前の作り笑いは見ていられなかった。


「あんたはなんでも一人で抱え込もうとする。」

名前が自分について話したのはあの時が最初で最後だ。あれ以来、身の上について聞いたことは無い。

「少しは俺達にも頼っていいンでさァ。近藤さんなんて名前のこと妹みたいに思ってるんだぜィ。」

悩みを全て話せとは言わない。でも、少しくらい頼ってほしい。

「みんな名前のことが心配なんでさァ。」

過去が分かることが名前の為になるなら、俺達ァいつでも力になりたいと思ってる。

たとえどんな過去があっても、それを受け止める覚悟くらい俺ァありまさァ。



相変わらず名前は柱にもたれて寝たままだ。

そろそろ起こそうか…


この後、名前を起こした後に土方コノヤローが見廻りサボった事を怒鳴って来た。

その時名前は俺と土方さんの間に立ち俺を弁護してくれた。

一瞬何が起こったのかわからなかったが、嬉しかった。今まで何度直しても「沖田さん」と呼んでいた名前がハッキリと確かに俺の事を「総悟」と呼んだ。


少しではあるものの

名前との間の距離が少し近づいた気がした。




2.5-其ノ距離ハ
測レナイ

土方さんが名前を市中見廻りに連れて行くことを許可したのも、
きっと名前のことを多少なりとも想っているから…






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