十四郎は私の彼氏である。その大前提を前に、私はケータイを開く。軽やかな音。新着メール一件の文字。顔がにやける。
from とーしろ
title RE:
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今から迎え行く
件名のないぶっきらぼうなメッセージ。十四郎らしい。了解と返事をして、制服のポケットにケータイをしまった。こんな小さな機会が彼と私を繋いでいるかと思うとおかしくなる。顔がにやにや。ちょっと気持ち悪い。
にじむ赤と橙の光が窓からさしていて、とけてしまいそうだ、と思う。でも夜の帷はすぐそこだから。
「っは、すまね、遅くなった」
ピト、と窓ガラスに手を添えた瞬間教室のドアが開いた。短い感覚で吐かれる息の音。がらがら音を立てる剣道の道具。十四郎。
「ううん、時間ぴったし。さすが」
「んだよ、さすがって…」
「とうしろーらしいねってこと」
ずり落ちていたリュックをかけ直して、十四郎の元へ走った。だらんと下ろされている右手を左手でつかむ。指を絡める。熱と洗剤と剣道部のにおい。胸が焦げる音がする。
「帰るか」
いつの間にか息を整えていた十四郎に引っ張られた。斜め右の肩。うん、と返事をして汗ばむ手を握りなおした。
君と泳ぐ射手座流星群