気になる子に好きって言うのがいかに難しいか、俺は今まで嫌になるほど体験してきた。

まず小学校六年生のころ。当時は中学生になるという気持ちの高ぶりからか興奮からか、一年に四人くらいの女の子を好きになった。まったく、今となってはとんだマセガキだと自分で思う。でも結局その子達に好きだと言えた事は無かった。今思えばそれでいいと思うんだけどね。だって一度に四人も彼女を作っちゃったら中学校に入学早々俺のあだ名は間違いなく「ぷれーぼーい」になるし、それに彼女たちが陰険な争いを始めれば男の俺は蚊帳の外になるだろうし。まったく、どっちにしろ罪作りな小学生だよね。
そして中学生になったら、まあこれは皆がなるパターンだよね。隣の席の子を好きになったんだ。何でだろう、今となってはあんまり可愛い子じゃなかったような気がするんだけど。性格も大人しかったし・・・まあとにかく、俺がその子に好きだって言ったか否かって言うのはやっぱり否なんだ。言おうとはした。けどその場になると口の中がばっと乾いて、むぐむぐ哀れな赤ん坊みたいに口を動かすことしか出来なくなっちゃうんだよ。そしたら彼女は世間一般で言う「なんだこいつ」の視線をばっちり俺に向けて廊下の向こうに走っていった。そうして次の日から俺のあだ名は引け腰金魚になった。


まあこんな感じで、自慢じゃないけど俺は女の子に好きだっていったことがない。これについて何回も悩んだりしたよ。でも結局はどうしようもないんだ。だから俺は今、高校三年生になるまで淡い切なさを抱いたまま恋なんかするのをやめていた。

しかし俺は今、絶賛片思い中なのである。相手は同じクラスの子。これがもうたまんないくらい可愛くて、好きになったその日から恥ずかしいことに告白のインスピレーションをしてきている。おかげでシチュエーションは完璧だ。俺の頭の中では。


「山崎君、日誌書いた?」



そして俺は今、その子と教室に二人きりなのである。またとないチャンスの到来。まさに脳内で書き溜めていた妄想と瓜二つ状態。これは俺、行くしかないだろう。


「いや、まだ・・・」

「待っとくから、ゆっくりいいよ」



大丈夫だ、今まで散々妄想してきたんだ。散々イメージしてきたんだ。ゆっくり息をすって、吐いて。やばい心臓がどきどきする。でもぐっと奥歯をかみ締めて平然なふりして、



「、ねえ!」


そうしてのどの奥にいる熱くて重い言葉を君になげかけるんだ!


「俺、君の事、す、」

「す?」

「・・・、好きなんだ!」



企画:うらら様に提出


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