十代#彼女の選択 | ナノ
綺麗な指先をしている。それが俺がはじめに彼女に対して抱いた感情だった。綺麗に整えられた爪に滑らかな肌。彼女は手入れを欠かしたことがないといつだか笑っていた。カードを扱うデュエリストとして彼女なりの敬意の払い方なのだろう。それに比べて自分はデュエルディスクをブーメランのようにぶん投げたり、カードを手裏剣扱いして、随分酷い敬意の払い方をしてきたものだと思った。

彼女はそんな指先を気にするほど、細やかなところから敬意を忘れず、どんな時も誇り高きデュエリストであったのだ。デュエルが好きって理由でこの世界に入ったもの同士だっていうのに、どうして自分と比べてこう差が出てしまうものなのか不思議で仕方が無いと思った。そんなことを彼女に言ったら、あなたでもそんなことを考えたりするのねと笑われてしまったっけ。

俺から見ても彼女は普通より一歩先にいた。ただの生徒なんかではなく、皆が憧れを抱くような、そんな存在。うちの学年の中でカイザーみたいな感じだった。おかげで自然と彼女の側にいられる人たちは淘汰され、加えて周囲から勝手に相応しいかどうかを品定めされているかのようだった。ドロップアウトだなんだと言われている俺はもちろんその品定めのお眼鏡に敵うことはなく、彼女の取り巻きが言うには論外で品が損なわれるから関わるな、だとか。仮にも同級生に対してなんて言い草だと思ったね。しかしながら彼女は心澄み渡る人物なわけで、やいのやいの言われる俺にも優しく普通に接してくれるのである。話は合うしデュエリストとして尊敬が出来るし、彼女は俺の中で好意的な存在だった。素直に彼女は良い人だと捉えていたのだが、残念ながら俺の考えは甘く、彼女は誇り高くあり聡明でもあったのだ。俺に優しくする理由が彼女にはあったのである。

彼女は翔が好きだったのだ。

だから翔と仲の良い俺と良好な関係を築こうと優しく接してくれたのである。まあべつにそれに対して憤りを感じたわけでもないし、その話を直接彼女から聞かされて意外と身近な存在に感じられたりもした。彼女でも恋をするのか、とか。彼女が好きになるのはきっとカイザーのような人物だろうと無意識に思っていたものだから、話を聞かされた時の俺は酷い間抜けヅラをしていたと思う。彼女が告白すればきっと翔は断らないだろう、俺はそう思っていた。なんてったって翔は彼女に対してとてもとても憧れを抱いていたのだから。しかしながら、彼女が翔に思いを打ち明けることはなかった。そしてなぜだか彼女はカイザーの恋人になってしまった。

カイザーと付き合う、その言葉を聞いた時、俺は真っ先に今日の日付を考えた。今日は四月一日じゃねえぞ、そう口から出た言葉は酷く枯れていた。彼女は、ええそうね、といつもと変わらない口調で答えた。違う、聞きたいことはそんなことじゃない。


「なにがあった?」
「何もないわ。何も」
「翔を好きっていうのは、嘘だったのか?」
「嘘じゃないわ。今も好きよ」


視線を俯かせながら、彼女は憂いを帯びた声で語る。


「翔は誇り高い私が好きなのよ。だから相応しい人が隣にいるべきだと、そう願ってる。だから私はカイザーを選んだの。
翔の好きな私であり続けるために」


意味わかんねえよ。好きなやつの側にいることが、なによりだろ?おかしいだろ。そんな言葉が口をついて出た。俺の本心だった。彼女は綺麗な指先を組み合わせ、それから俺まっすぐ見つめてきた。彼女はゆっくりと唇を開く。私、翔への思いをあなたに打ち明けた時、あなたがどんな顔をしていたか覚えているわ、と。ああ、そうだ、あの時俺は思ったのだ、思ってしまったのだ。彼女が思う相手にしては、と。彼女の周りで彼女の側にいるべき人を見定めるオーディエンスのように、見合うかどうか下卑た査定をしていたのだ。悲しそうに笑う彼女に、俺は口をつぐむことしかできなかった。


「十代、あなたがいてくれてよかった。あなただけが、本当の私を知っていてくれているから」


これから先、彼女は恋人ではない男の事を思いながら、その男の理想像を歩み続けるのだろう。なんて酷い選択なのだろうか。彼女にそうさせたのは、翔も含め、紛れもない俺たちだったのだ。

20160703
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