カイザー#にこいち | ナノ
アカデミア時代から俺と彼女は似たもの同士だと周りは口を揃えて言っていた。デュエルに対する姿勢も、考え方も、戦略も、俺たちはいつも同じ方向を向いていたのだ。自分と志す先が同じものがいるという事実は俺に向上心と期待感をもたらしてくれた。共に上を目指し、同じ夢を語り合う彼女は、俺にとっては特別な存在であった。恋愛感情とかそういったものではなく、ただ、特別、であったのだ。彼女にとって俺はどういった存在だったかはわからない。けれど少なくとも他の人たちよりは特別な存在として扱っていてくれたように思う。

彼女がいる限り、俺は一人ぼっちではなかった。アカデミアを卒業し、お互いにプロリーグの道へ進んでからも俺たちの関係は変わりはしなかった。世間も帝王の俺に対して彼女を女帝と持て囃した。デュエル界のベストカップルだなんて謳う雑誌だってあった。俺たちが目指すものは常に同じものであったはずだった。しかし俺はその道を踏み外した。ほんの些細な1試合で。いや、他人からみたら些細な試合だったかもしれないが、俺にとっては今まで生きてきた全てを覆すほどの壮大な試合だったのだ。それから世間は彼女の隣から俺を引き摺り下ろし、そして皮肉なことに彼女の隣に相応しいのはエドフェニックスだなんて囃し立てた。そこは俺の、俺だけの場所だったはずなのに。

俺はもう彼女と同じものを目指せなくなっていた。寧ろ、全く逆に俺は道を見つけて歩むことを決めてしまったのだ。特待生の白い制服を脱ぎ捨て、漆黒のコートを身に纏った。俺は一人ぼっちになってしまった。怖かった、寂しかった。俺がいつもあんなに自信をもって一歩一歩を踏み出せたのは彼女が隣にいてくれたからなのだと、ようやく理解したのだ。新しい道を歩む中、残虐だ、最低だ、侮辱している、数々の暴言を吐き捨てられた。逆に讃えてくれる人もいた。しかし俺はやはり一人ぼっちだったのだ。俺のそばにあったのは、勝利のただひとつだけだった。

ある時、順調だった彼女は躓いた。以前の自分と重なって、彼女はやはり俺とあるべきなのだと思ってしまった。それから階段を踏み外したように彼女は転げ落ちた。彼女が落ちて落ちて辿り着いた先は、偶然なのか必然なのか、俺と同じ道だった。だけど彼女は俺と違って葛藤していた。これでいいのか、と。勝利を渇望することを賞賛する声と、相手を冒涜していると罵る声と、彼女の心はぐらぐらと不安定に揺れていた。進むべき道がわからず、誰も答えを教えてくれない、そんな状況に押しやられた彼女はきっと孤独を感じていただろう。

あの時の俺と同じ孤独を。

俺は嬉しかったのだ。俺が苦しみ抜いたあの孤独を、今まさに彼女が感じているのだから。他の誰にもわからない、その孤独を。だから彼女は俺に縋るしかなかったのだ。その苦しみをわかってあげられるのは俺しかいなかったのだから。君には俺しかいない、俺には君しかいないのだ。ああ、なんて痛々しい。

20160627
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