ヨハン#同属嫌悪 | ナノ
お前、わかっているのか?そう尋ねたヨハンは実に不機嫌だった。そりゃそうだ。デスクにて彼は書類を淡々と片付けていたというのに買い物帰りの私がケーキ片手に自らの職務室に押し掛けてきたのだから。ただそれだけでも彼の怒りのバロメーターを上げるというのにそれに加え、私が口にしたのは彼のライバルである十代の話なのだから、なおさらだ。まあ私から十代の話を仕掛けたわけではないから後者は不可抗力と言えるのだけれど。ただ、ヨハンは買い物帰りの私に向かって、そろそろデュエリストを辞めないかと言った。自分のように安定した職につけという忠告らしい。そこから話が展開して何時のまにやら十代に辿り着いたのだ。確かなぜそんなことを勧めるのかとか、デュエリストを辞めて私にどうしろというのとか、そんなことを話していたと思う。そしてそれらを交わす中、ふと思い出したのは以前十代に告げられた一言だった。「お前が引退したら俺が養ってやってもいいぜ、俺はプロの中で勝って稼ぎ続ける自信があるからよ。」彼が私に好意を持っているのは見え見えだったから少しは本気だったであろうその言葉。そして私はうっかり口を滑らしたのだ。辞めたら十代に養って貰おうかな、と。たったその一言だけでこの空間はヨハンから発せられるどす黒い威圧的なオーラで包まれた。まあ私はそれを気にせずケーキを口に運び続けたけど。


「お前は知らないんだ。あいつがどれだけ打算的か」
「ヨハン、貴方もなかなか計算高い男よね」
「とりあえず、あいつだけはやめとけって。

俺はあいつがとびきり、嫌いだ」


スーツを着込んだ20代半ばのいい男が随分とまあ子供らしいことをいうものだ。少しだけこのヨハンという男が近いものに感じられた気がした。くすりと笑いを溢しながらもう一口ケーキを頬張る。そしてそれを咀嚼し終わってから、笑顔で彼にひとつだけ質問を投げ掛けた。


「ねぇ。同属嫌悪って言葉、知ってる?」


彼はとびきり嫌そうな顔をした。ああ、素敵な表情。

20160614
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