十代#フリーダムな彼女 | ナノ
十代ってばいつもヘラヘラしてるね、あいつがいつだったかそう言ってたのを思い出した。そんなつもりはなかったんだけど、いろいろ本心を覆い隠して平穏にやっていこうと心がけてたら、いつのまにかこんなんになってたんだよ。なりたくてなったんじゃないんだ、そんな言い訳じみた言葉ももう彼女には届かない。彼女のデッキを一枚一枚広げながら、彼女に思いを馳せた。
「十代、あなた知っていたんでしょう、ライディングデュエルの危険性に」
「ああ、もちろん知っていたさ。スリップしたらあっという間にあの世いきだなんて常識だろ?」
あいつは自由なやつだった。俺も十分自由なやつだなんて周りから言われたけれど、そんな俺から見てもあいつはなかなか無茶なやつだった。彼女にとって俺は二の次の存在だった。彼女の一番はライディングデュエルだった。ライディングデュエルならではの戦法が面白くて、いつしかのめりこんでいったの、なんて明日香たちの前では言っていたけれど、俺は知っていたんだ。彼女は本当は、クラッシュするかしないかの、そのスリルが生き甲斐だったのだ。
「なら、なぜとめなかったんだ。彼女が死ぬかもしれないとわかっていながら…、十代、貴様なぜとめなかった」
「なぜって、簡単さ。彼女が望んでいたから。ライディングデュエルはあいつの生き甲斐だったんだ」
いつだか、全身傷だらけで帰って来た時、彼女は笑っていた。こみ上げる笑いが止まらないみたいで、その姿に思わず俺は少し引いたね。それから彼女は言ったのだ。あと少しだったのに、と。何にあと少しだったかはその時の俺にはわからなかった。だけど今ならわかる。
「あの時とめていたら、彼女は死ななかったんじゃないッスか!アニキは、…酷い男だ」
「酷い男、か…」
彼女はまさしく生き甲斐に命を掛けたのだ。だったら俺は彼女の望みを邪魔するわけにはいかないだろ?あのとき彼女を止めていたら?どうなっていたかなんてわかりきってる。生き甲斐なくしてあいつは生きていけなかったに決まってる。自ら望まない生き方ならば投げ出すような、そんなやつだっただろう、みんなわかっていながら俺を責めるんだな。泣いてすがってあいつからライディングデュエルを引き離して、それから、それから、…どうすればよかった?
「一番後悔してるのは俺なのにな」
ばたばたと彼女のデッキのカードの上に涙が落ちていく。彼女はもう、いない。
20160522--------------