十代#傷ついた十代 | ナノ
なんて私はバカなんだろう。感想はただそれだけだった。別に傷ついてるわけでも無関心でいられているわけでもない。ただ、目の前にそういう光景がある。それだけがただひとつの事実でしかない。それを受け入れるにも受け入れられない自分を憎んだ。なんてバカな私。なぜもっとはやく気がつかなかったのだろうか。いや、気がついていたとしても私なんかに何ができただろうか。この、無力な私に。
今にも崩れてしまいそうな彼に、私は一歩だけ近づく。革靴と地面がぶつかる音が異様にこの空間に響き渡って、実に不愉快だ。


「十代」
「俺、は…」
「十代、十代」


知ってたさ、最初から。そう十代の口から溢れた言葉は空中に広がったあとすぐに溶けて消えた。耳を凝らしていなければ聞き取ることができなくなる彼の声量にどれだけ彼が押さえ込んでいたのか理解してしまい、怖くなった。


「最初はさ、押さえ込んでたよ、そりゃ。だけどさ、アイツからお前との思い出話を聞かされてるうちに、幼馴染みのお前の知らないこと恋人の俺はたくさん知ってるんだぜ、って言われてる気がして堪らなかった。きっとそれは図星だったから。俺の知らないお前の話聞くたびにさ、胸が痛いんだよ。苦しくて悔しくて。

悪い、今日が我慢の限界だったみたいだ」


思わず殴りかかってこのざまだ、吐き捨てるように彼は言った。そして虚ろな瞳でとなりの気を失っているらしいヨハンに目線をやる。どうやら乱闘の末ヨハンが倒れたらしい。だが、倒れているヨハン同様十代もぼろぼろな状態だった。二人の制服は泥と血がわずかに滲んでいて、ヨハンは口内を切ったのか口端から血が流れていて十代は口端の痣が鬱血していた。


「好きになって、悪い」


謝るのは、私のほうなのに。ふらつくように立ち上がった十代は私のほうに向き直り、泣きそうな笑みでそう謝った。そしてゆっくりと弱々しく抱き締められた。ずっと想っていてくれたのに、気が付かず私は何年彼を傷つけ続けていたのだろうか。考えるだけで罪の重さに押し潰されそうになる。それに十代をそうしてしまったせいで親友と殴りあいをさせてしまったヨハンになんて謝ればいいのだろうか。


ただ呆然としている私は自分が傷付けた幼馴染みを抱き締め返すことも、腕を振り払って愛しい恋人に駆け寄ることも、できなかった。


愛情と友情が
壊れて、

消えた
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