カイザー#予想外な告白 | ナノ
本日のドロー運大吉なり。澄み渡る青空の下木陰に寝転びながらかじるドローパンは格別だね。しかもなんてったって今日引いたのは黄金の玉子パンである。いっつもチート並のドロー運を携えている十代に取られちゃうもんだから、今日は十代が購買にたどり着く前に私は猛烈ダッシュで購買に駆け込んだ。ぜえはあと息を切らしながら必死にお祈りをし、全力でドローパンを引く姿はさぞかし不気味な姿だったであろう。そんなことはどうでもよいのだ、黄金の玉子パンを手にするのになりふり構ってなんていられないのである。口いっぱいに玉子パンを頬張ると胸が幸せで満たされる気分だ。さわさわと風が木々を揺らす音も心地がよく最高のランチタイムを噛み締めていると、良く知った顔が視界に入った。というか、目がかち合わさった、確実に。スカート丈も気にせず寝転びながらドローパンを頬張る無様な姿を、目撃されたのだ。目があった以上そのまま無視するなど出来るはずもなく、しかも先輩だし、どうしたものかと考えた後、その体制のまま首を垂れて随分と粗末な挨拶をした。パンに噛り付いたまま、だ。自分自身なんて失礼な挨拶だろうと思った。それから相手はそのまま立ち去るかと思いきや私の想像に反して、なにやらこっちに近づいてきているではないか。私の目の錯覚でなければ。やばい、怒られる?なんてったって彼は品行方正、文武両道、眉目秀麗、なんかそんな感じの四字熟語がぴったりな人格者だ。先ほどの私のふざけた挨拶のようなことなんて生きてるうちにすることはないだろう、いや死んだあともしないだろう、そんな人だ。冷や汗がじわりと滲む気がする。ざっざっざっ、と足音さえもなんか品格を醸し出してる気がした。私のすぐそばまでたどり着いた彼に対し、再び私はなんとなしに頭を下げた。今度はパンから口を離しておいたさ。


「その格好で食事をとるのは些か如何なものかと思うが」
「ああ、はあ、ご忠告どうも、丸藤先輩」


そんなことを言うためだけにわざわざ近寄ってきたのか、カイザーも意外と暇してんだな、なんて思った。対して仲も良くない後輩にも品性の指導するなんて先輩の鑑だね、別に見習いたくないけど。それにしても寝転んでいるせいで必然的に見下ろされてる構図になっていて、あまり良い気はしない。さっきまでの最高の気分は彼によってぐしゃぐしゃに踏み潰された気分だ。はやくこの場から立ち去って欲しい、なんて考えていたら彼は私のすぐ横に腰を下ろしたではないか。驚きで口が塞がらない。ここで座る意味がわからない。もしかしてこの場所は彼のお気に入りの場所だったのか?私が彼の特等席をとってしまったのか?そんな考えが頭に浮かんで、ああ、それなら私が移動しなければ、と寝転ばせていた身体を起こした。制服についた草や砂を手で払って、食べかけのドローパンを袋にしまい、この場から立ち去ろうとしたら、なかなかの力で右腕を掴まれた。この場には丸藤先輩と私しかいないのだから必然的に腕を掴んできたのは丸藤先輩で。私の身体はガクンと前屈みになる。痛いし、余計に意味がわからない。混乱しつつ疑問の視線を彼に寄越せば、彼はなぜ立ち去ろうとする、なんて言ってくる。なぜって、あなたがここにいるからに決まってるじゃないですか。


「あの、そんなことより、痛いんですけど…」


離してくれと視線で訴えると、彼は慌てたようにああ悪いと腕の力を弱めた。しかし離すつもりはないようだ。仕方なしに私は腕を掴まれたまま地べたに座り込んだ。すると彼は安堵したように目を丸くさせ、それからすまなかったと腕を解放してくれた。ここまでの彼の行動で、なんかわかった、良く分からないけれど私にここにいて欲しいらしい。ほんとに、良く分からないけれど。取り敢えずここから立ち去るのを諦めて、まだ食べかけだった玉子パンを取り出した。大きくかぶりつこうとした瞬間、じと視線感じる。首をそちらに向ければ物欲しそうな丸藤先輩。え、普通後輩にパン集る?なんて思ったけれど、まあいいかと噛り付いてない部分を雑に引きちぎり、どうぞと彼に差し出した。


「好物なんだ、玉子パン。今日は君が引いたとトメさんから聞いて…」
「ああ、それで、私のところにたかりにきた、と」
「あ、いや…。そうじゃないんだ。…いや、そうだな、実際こうやって君から施しを受けているのだから…」
「あ、その、ぜんぜん、大丈夫です!全部よこせとか言われなかっただけ、ましで!あ、ましとか言っちゃった。」


というかどこまで玉子パンに執着があるんだよこの人。意外な一面を知ったわ。べつになんの得もしないけど。私は残りの玉子パンに噛り付く。隣を見れば丸藤先輩も私が分け与えた玉子パンを口に放り込んでいた。それからなにやら気難しい顔をしていた。え、好物を食べてそんな顔する普通。彼は必死に適切な言葉を探り出すかのように、拙く喋り出した。


「その、なんだ…違うんだ。いや、玉子パンが好物なのは本当だ。ただ君に集ろうとかそういうために来たわけじゃなくて…」


丸藤先輩の話を半分くらい聞きつつ、もきゅもきゅと玉子の味わいを噛み締める。


「ずっと前から君のことが気になっていて、ただの話をする、口実なんだ」


もぐもぐもぐ、ごっくん、…え?

口を開けて惚ける私と、恥ずかしそうに視線を俯かせた丸藤先輩と、それから、私の手からこぼれ落ちていく残り少ない玉子パン。

ぐしゃり、…え?

20160423
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