ヘルカイザー#情熱的なキス | ナノ
まるで呼吸を奪うかのようだった。唇が力強く押し付けられ、けれども優しく何度も啄ばみが繰り返される。熱い彼の唇と時折触れる空気の冷たさで、背筋がゾクゾクとした。彼の筋肉質な腕はひとつは私の腰に回され、ひとつは私の頭の後ろを固定している。逃がさない、そう言いたいように見えた。何度も彼の胸板を押し返そうとするが、彼の拘束の前では全くもって無意味で。それすら彼は愛おしそうに目を細ませ、撫ぜるように指を絡ませてくるのだ。時折瞼を開けてみるのだが、そこにはいつだって彼の恍惚とした表情があって。ああ、そんな鋭い瞳で酔いしれた顔をしないで。そのエメラルドのような瞳に虜になりそう、そんな気分だ。呼吸を、舌を、唾液を、食らいつくすように彼は私を欲した。私とは違う体温の粘膜が口内を這いずり回り、そして絡み合う。苦しそうに私がごくりと喉を鳴らすたび、彼はより嬉しそうに顔を綻ばせるのだ。それを見たくなくて、私は瞳を閉じた。髪に触れ、首筋をなぞり、頬を撫で、唇が離れていく。彼の熱い吐息が唇をかすった。見上げれば、妖しい光を放つ瞳と不敵な笑みを浮かべた口元。世界一愛しいものに触れるかのように彼は私の唇を指先でなぞり、それから自分の唇を舌でひとなめした。とてもとても甘美な口付けで、こんなに愛情のこもった熱のある口付けは生まれて初めてであった。問題なのは、私はこの男の名前すら知らず、加えて最近私を付け回してた張本人であるということだ。

20160403
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