クロウ#彼女の告白 | ナノ
全てが、終わったのだ。遊星のおかげで一度終わりに近づいた世界は元通り、いや、以前以上に発展をした。街が発展しただけではない。人々からは荒んだ心が消え、みな輝かしい明日を見つめていて。とても、とても良い町になったのだと思う。何かに怯えることなく、戦いの道具としてカードをかざすことももうないのだ。平穏と呼ぶに相応しい景色を窓から見つめながら私はため息を吐いた。目を閉じればまだ、思い出すことができる。あなたの声、笑顔。まだ、大丈夫。





「遊星と喧嘩でもしたのか?」


予想だにしない質問が飛んで来て、私は思わず質問者のクロウを驚きのあまり凝視した。私のその反応でどうやら見当違いの質問だったと気付いたらしく彼は、俺の勘違いだ悪かったなと罰が悪そうに笑った。勘違いならそれで良いのだけれど、一体なにをどうしたらそんな勘違いを起こしてしまったのだろうと不思議に思った。クロウから見て私の行動は何か不審だったのだろうか。


「私、無意識に遊星を睨んでたりでもした?」
「いや、別にそうじゃなくてよ。なんていうか、あの戦いが終わってから、お前の遊星に対する態度が、なんか少し余所余所しいと思って。遊星になんか嫌なことでもされたのか?」
「…いや、まさか!」


遊星が私に嫌なことなんてするはずがない、いや、私じゃなくとも誰かにそんなことをするような人間じゃない、彼は。馬鹿なことを言うなあクロウは。彼の言葉を笑い飛ばしながら、遊星が悪いのではない、私が悪いんだよと自らを嘲笑った。私が、悪いのだ。平穏が訪れてから、ゆっくりと考える時間がいくらでもあった。おかげで考えて考えすぎて、自分の中の気持ちをうまく整理出来なくて、誰にも言えなくて、挙げ句の果てにはいつの間にか態度に滲み出ていたとは。クロウが気付いて声をかけてくれたのが幸いだったのかもしれない。覚悟したようにゆっくりと瞳を閉じる。頭の中で響くのは優しく私の名前を呼ぶ彼の声で。それから私はクロウに向き直った。


「私、ずっと秘密にしていたことがあるの」


クロウにも、ジャックにも、もちろん遊星にも。その言葉を聞いてクロウは驚いていた。幼馴染と言っても過言ではない彼らにもずっと秘密にしていたことがある。誰かに打ち明けることは出来なかった。いつからだったか私は、自分の存在意義が遊星やジャックを支え続けることと思い込んでいて、そうやって行動して来た。彼らは自分に持ち得ない才能と力を持っていて、そのために私は全力でなにを犠牲にしても彼らを支え続ける存在なのだと、当たり前に思っていたし、彼らも私の支えを必要としていた。だからこそ、言えなかった。だって言ってしまえば、ずっと支えてきたあなた達を裏切ることになる気がして、怖くて。でも今でも思い出すし、覚えてるの。彼の優しい声を私を気遣う姿を。消えて行くあの時の笑顔を。


「私、ずっと好きだったの。ブルーノのこと、ずっとずっと、好きだった」


静かに、重く響いた。窓の外から小鳥の囀る声が聞こえて、それからクロウの息を飲む音。彼は目を見開いて、悪い、俺たちは…、彼の言葉は続かなかった。私は首を横に振って、違うの、大丈夫、私は恨んでるとかそういうのじゃないの、と呟いた。クロウにこんな顔をさせたいわけでも、責めているわけでもない。誰が悪いわけでもない、ああするしかなかった、だって彼は敵側の人間だったのだから、そんなことはわかっているのだ。でも、考えれば考えるほどどうしようもない苦しさがこみ上げてきて、どうしたらいいかわからないのだ。


「…ブルーノに伝えたのか?」
「ううん、言ってもいないし、気づいてもいなかったと思う」
「そうか…」
「私さ、ジャックがキングの座を追われたときも、遊星が鬼柳に挫けそうになったときも、ずっと二人のそばに居て支えてたの」


でも、でもね、私が挫けそうなとき颯爽と現れて二人が助けてくれることはなくて、私に優しく手を差し伸べてくれたのは、ブルーノだったの。遊星とジャックが悪いわけじゃないし、見返りを求めていたわけでもなくて。ただ辛いときに立ち直るきっかけをくれたのがブルーノだった、ただそれだけなの。俯きながら思いの丈を言葉にして、じんわりと視界が滲んだ気がした。
私の言葉を聞いたクロウはなんとも言えない顔をしていて、反応しづらい話をしてしまってごめんねと笑った。


「…いっそのこと俺たちとまるっきり離れてみるのもアリじゃないのか?一人になってそれから、気の済むまで悩んで悩んで悩めばいいさ」


なんてったって、時間はいくらでもあるんだからよ、そう言ってクロウは白い歯を見せて笑っていて。そうね、と私もつられて笑った。あなたのことが思い出される限り、あなたのことを想い続けるのもいいかもしれない、そう、思った。

それくらいいいでしょう?ブルーノ。

20160325
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