十代#別れの季節 | ナノ
出逢いがあれば別れというのがいつか来てしまうのは当たり前というものでして。私は今まさに別れと言うものを前にしていて足が少しだけ震えていた。恐怖とかそういうわけではないが、もしかするとたぶんこのまま先には踏み出したくないと本能的に身体が反応しているのかもしれない。だからと言ってこのまま進まずに立ち止まるなんてことは不可能であり、あり得ないことなのだ。立ち止まることができないのなら、このままなにもかも振り切って現実をなかったことにしてしまいたい。もちろんそんなこともできるわけもないので、私はただ零れ落ちそうな涙を必死に留めることしか出来ないのだ。どうかとなりのあなたが気づきませんように、と。


「寒いな」
「寒いね、十代」


寒い、寒いよ。それは私の心が寒がっているのかもしれない。もうこれから私のとなりはもうなにもなくなる、となりにいた体温もなくなるんだ。ふととなりの彼は私の手を握りしめた。寒空の下には、その彼の手は合わないくらい温かかった。冷たく震えていた私の手を簡単に包み込んでしまうくらい大きくて温かい彼の手のひら、もうこれっきりだと思えば心の奥底を締め付けられたかのように痛くなる。もう二度と会えなくなるわけじゃない、だけれど今までのように日常に彼がいるわけでもなくなる。そんなの、彼が消えてしまうみたいだ。星が降ってきそうなくらいの美しい空の下、私と彼二人っきりだったはずの空間に電車のレール音が鳴り響いた。それは、彼との別れを表していて、ゆっくりと立ち上がった彼と繋がれていた手はするりと離された。もう行かなくちゃ、名残惜しそうにそう言った彼の顔をまっすぐ見れない。これで最後なのに、見れない、見たら泣いてしまう。


「元気でな」
「十代も、」


荷物を背負って、彼は電車に乗り込んだ。そして音を立てて私と彼との間に扉が隔てられる。行かないで、扉が閉まる寸前に口から零れ落ちた言葉に自分で驚いた。ちゃんと見送るって決めていたのに、涙も見せないって決めていたのに、全部なにかが崩れ落ちた。顔を上げて彼を見つめたなら涙が止まらなくなる。今彼の瞳には私はどんな風に映ってるんだろう未練がましい女みたいなのかなでもそれでもいい。走り出す電車を追いかけた。全力で追いかけた。窓に手をついて彼は何か叫んでいたけど、涙で歪んだ視界では唇を読むことも、聞き取ることも出来ないよ。


聞こえないよ、十代。


世界が最期の恋をする

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