ヘルカイザー#弱気なヘルカイザー | ナノ
なによ、テレビを通して見たあなたとは全然違うじゃない。楽しそうに口に弧を描き、射殺すような瞳で敵を映し、見下した台詞を吐き捨てる、そんなあなたに変わったのでしょう?だったら私の前でもそう振舞って欲しかった。今目の前に立ちすくんでいる彼は、アカデミアを卒業するときに私に言った台詞を覚えているのだろうか。一生幸せにしてくれるって、言ったじゃない。微笑んで、抱き締めてくれたじゃない。そんなことも忘れるくらい、彼は勝利が欲しいのだろうか。彼は気付いてるだろうか。私があなたに失望していることを。それはヘルカイザーになったから失望しているのではなく、私よりも勝利を選んだことに失望している、と。


「いつもの威圧的なヘルカイザーは何処に行ったのかしら」


何も答えない彼に腹が立った。いや、その沈黙が何を意味しているか自分がわかってしまったことに腹を立てているのかもしれない。彼がヘルカイザーになっても私は彼の傍にいた。好きだったからに決まっている。好きだったからこそ、彼が今何を考えているのか、私をどう思っているのかも手に取るようにわかってしまう。彼はヘルカイザーになって残虐的な性格になってしまっても、優しさはまだ残っているのだ。知ってるよ、あなたが今これから出す言葉にどんな意味があるのか。これから先、私を傷付けたくないんでしょ。だからここで切り捨てるんでしょ。私の気持ちなんか無視しちゃうんでしょ。


「…あの約束は、もう守れない」
「知ってる」
「他のヤツと、幸せになってくれ」
「そんなの、あたりまえじゃない」


自分では幸せにできないと未来を見越した彼の台詞が私を切りつける。だから最後に嫌味を言ってやった。絶対に他の人に幸せにしてもらうんだから。そしていつかそれを彼に見せ付けて、そのとき彼が死ぬほど後悔してくれればいいわ。雨が私たちの肩をどんどん濡らしていく。きっとにもう二度と会うことのない彼に背を向けて、私は吐き捨てる。あなたなんか、大っ嫌いよ。でもこれから私がどんなに幸せになろうが、そのときに思い出すのはあなたの顔なのだろうと悔し涙を流す。ああ、確かヘルカイザーが生まれのも、こんな雨の日だったっけ。



--------------
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -