ヨハン#ラブレター | ナノ
白い封筒にピンク色のハートのシールが貼ってある。これはどこからどう見たってラブレターだ。一体誰だ今時こんなベタなことするのは。封筒の裏には確かに私の名前が書いてある。なんだか嫌な予感がしたけど、未開封のまま放っておくわけにもいかないしハートのシールを容赦なく破って封筒を開けた。中身を取り出すとラブレターではなくカードが入っていて予想外のことに一瞬頭が真っ白になった。しかもそのカードは私が今いちばんほしかったカードだ。状況がまったくわからない。誕生日でもないし、何か特別なことは特に無かったはずだ。
それにしても別に喜んでたわけではないけど当たり前にラブレターだと思った私、恥ずかしくない?まあ兎に角誰かに見てよこれラブレター、とか言って恥をかく前に開けて良かった。
しばらく考えてもカードをこんな形でくれるような相手が誰なのか思いつかない。送り主がわからないからってこのままカードを捨てることなんてできないし、だからといって黙って貰っておくのも気が引ける。
とりあえず吹雪さんにでも相談しようとカードを封筒の中に戻し、顔を上げると何故か目の前にヨハンがいた。いつからいたの?と問いかけても返事がない。意識がどこかにお出かけしてるらしい。下を向いて気のせいか足が少し震えている。今のヨハンを例えるなら、野獣におびえる小動物みたいだ。私より背が高いはずのヨハンがとても小さく見える。
「あのー、ヨハン。どうかした?」
「………」
「おおい、聞こえてる?」
「……え?」
肩を軽く揺らすといったいどこに魂が出かけていたのか知らないけどやっと戻ってきて顔を上げた。でもすぐに下を向いてしまって、顔を覗き込むと可哀相なくらいに顔が真っ赤だった。軽く頬に触れてみるとすごく熱い。いったい何が彼をこんな姿にしてしまったんだろうか。しばらく様子を伺っていると落ち着いたらしくヨハンは顔を上げた。
「みっ見てくれたか?」
「え?何を?」
「そ、そそそれだよそれ」
噛み噛みで声を震わせながら私の手にある封筒を小さく指差す。これヨハンだったの?と聞けばヨハンはああ、と呟くと口を閉じてしまった。説明するのは私か。
「このカードすごく有難いけど何で急に?」
それにこんなラブレターみたいな送り方、と付け足すとヨハンは何を思ったのかバッと私の手から封筒を奪った。すると少し手を震わせながらもふたつに別れて封筒に貼り付いているハートをそっと剥がし始めた。私はポカーンとその様子を見ていると無事剥がし終えたヨハンは、ふたつのハートを繋げて指に貼り付けて私の目の前に出してきた。
「これ見ろ!これに俺の気持ちがこもってんだよ!」
「は?え?どういうこと?」
「だから!ラブレターみたい、じゃなくてラブレターなんだよ!どっからどう見たってラブレターだろ?」
さっきまでの小動物な姿とは大違いだ。威勢良く声を張って必死にハートをアピールしてくる。そうか、ラブレターで合ってたんだ。でも何故カード?と聞けば十代が好きな子にはプレゼントをラブレターで送るのがいちばんだ!とかなんとか言われたらしくそのまま実行したらしい。きっと十代はプレゼントにラブレターを付けて、と言いたかったんだろう。
「で、で?返事は?」
「ちょっと待ってよ。ラブレターっていったって、私まだヨハンから好きの一言も聞いてないんだけど?」
「なっ何だよそれ…!」
意味不明なラブレターを送るのだけでもあんな姿になって精一杯だったというのに、これは少しやりすぎだろうか。私はかかとを浮かせて、ヨハンの真っ赤な頬にキスしてやった。
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