万丈目#あめのひ | ナノ
バケツをひっくり返したような雨っていうのは、きっとこういうことを言うんだろうな。最悪だ。なぜきちんと天気予報を見てこなかったのかと今朝の自分自身を恨んだ。いや、だって午前中はすごい晴れだったし、雨なんか降るって誰も予想しないでしょ普通。なのに友人たちはみんなしてなんで折りたたみ傘を持っているんだ。しかも誰も入れて行ってくれなかったし。酷いと思わない?そのおかげで私は一人土間で立ち呆ける。何だこの喪失感は。


「おい、何してる」
「えー?万丈目?何してるって、見ての通り立ってる」
「…馬鹿にしてるのか」
「ごめんごめん。帰れないの。こんな雨降るとか聞いてない」
「天気予報に午後から雨ってあっただろう」
「いやぁ、見忘れちゃって」


彼のほうは見てはいないけれど、声だけで万丈目だってわかった。そのまま彼の姿を確認せずに壁にもたれながら雨を見続ける。いきなりパタッと止んだりしないかな雨。なんて考えてみたけれど、そんなことは絶対にありえないだろう。あー私はいつになったら帰れるかな。すると突然隣でパン、と乾いた傘の開く音がした。突然なその音に私は驚いて少しだけ身体が震えた。何事かと横を見てみれば、そこには傘を広げた万丈目が居た。なんだ万丈目も持ってたんだ、傘。止むまでの話し相手になってくれるかなーなんて考えてたけれどそれは無理か。んじゃ、ばいばい。と万丈目に手を振れば彼は驚いたように目を見開いた。あれ、私別れの挨拶を口にしただけなんだけど。


「え、何、どしたの?」
「…来い」


え?と思わず私は聞き返してしまった。だって万丈目の声が雨の音に掻き消されてしまうくらい小さかったんだもの。頭にクエスチョンマークを浮かべる私をじれったく思ったのか、彼は眉間に皺を寄せ私の腕を無理やり引いた。私と万丈目とならんで彼のかさの中へ収まる。


「送ってってやる」
「まじか」
「もっと喜べ」
「うん。ありがと」


ふと横を見た、少し勝ち誇ったような顔に雨もいいな、と思った。



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