万丈目#キスして逃げたら | ナノ
人間、突然予知していなかったことが起こると、思いがけない行動をすることが多々あるのだ。それは私の今の現状でもあるのだが。自分が進んだ先に、今最も会いたくない人が居た。それが私にとっての予知していなかったこと。その後した思いがけない行動というのは、反射的に180度身体の向きを変えて前に進んだことだ。おかげでその先にあった壁に額を酷く打ち付けて、痛い。その額の痛さと、明日香の声を振り切ってまで、私はその後走り続ける。それだけ会いたくない人が居たのだ。頼むから私があの場に居たことを彼が知らないでいて欲しい。


「何、どうしたのよ一体。いきなり振り向いて壁にぶつかったと思えば、急に駆け出して」
「ごめん、ちょっと身体がグイってなって」
「わけがわからないわよ」


あの場から全力疾走したはずなのに、明日香は私を追いかけてもうすぐ傍まで来ていた。おかしいな、明日香ってこんな足速かったっけ。ちがう、私が変に緊張して体力が一時的に低下しているだけか。だめだ、たった一瞬彼を見ただけでもあの光景がフラッシュバックする。私いっつも人の言うことや光景をすぐに忘れてしまうくせに、こういうことだけははっきりと覚えているのだろう。壁に強く頭を打ち付けて記憶を飛ばすことができるというのなら、何度でも打ちつけるというのに。いや、でもさっき、かなりの衝撃を額に受けたけれど、記憶飛ばなかったから無理か。ああ、早く治まれ私の心臓!


「だれか会いたくない人でも居たの?」
「まあそんなとこってことで、、、さよならっ」


油断してた。視界の端に入ったあの黒色から逃げるように、私はまたしても駆け出す。明日香、お茶会の約束はまた埋め合わせってことで、と言い残して。だめだもう。彼が視界に入るだけで、緊張で足が攣りそうだよ。今更ながらだけど私が逃げているという人物は、黒い服に身を包んでいる万丈目準だ。彼に見つかっては駄目。必ずと言っていいほど、捕まえられるまで追いかけられるに違いない。もう彼に捕まったことを考えるだけでおぞましい!とか壁の影で考えてたら、その男が目の前にいつのまにかいた。私は悲鳴を上げるのすらも忘れて、気が飛びそうだった。


「なななななななんで準が、」
「天上院君から、聞い、た。お前そんなに足速かったのか…!」


やっと捕まえられたかと思ったら目の前のこいつは俺に脅えるかのような視線を浴びせてくる。そのことに多少イラついたのは置いといて、こいつはほんとに女なのだろうか。俺が全力疾走しても全く追いつかなかったんだが。いや、いまはそんなことはどうだっていい。聞きたいのは、この間の話だけだ。


「いつまでも俺を避けやがって。さあ聞かせてもらおうか」
「あの、いや、その…」
「…さっきも俺を見るなり、逃げたな」
「いや、いやあれは、あれ…えーっと」


「まあそれはいい。聞きたいのはこの間の話だけだ」


なんであんなことをした。そう言ったら彼女は黙って俯いた。この間、俺が昼寝をしているときこいつが近づいて来たことで目が覚めた。すぐに起きる気力は無くてしばらく目を瞑っていると、突然唇に何かが触れた。驚きで微かに瞳を開けてみてみると、彼女が俺に口付けていた。ただ俺は、そんなことをした理由を彼女に聞きたかったのだ。ただの気まぐれか、気の迷いか、それか…。あのことは俺にとって衝撃だった。だって彼女は俺にそんな気を見せるような素振りを見せたことは全く無く、いつも言い合いをする仲だと自分は思っていたのだから。だから気まぐれか気の迷いだとしても理由は何かしらあるはずなのだから、当事者である俺は聞いておきたい。なのにコイツと来たら俺から逃げてばかりで。


「…逃げるんだったら最初からあんなことをするな。あと、減るもんじゃないと軽く振舞っていれば、後悔するのはお前だぞ」


「馬鹿!あほ!間抜けがなにわかったような素振りしてんのよ!」
「なっ!」


好きだから思わずしちゃったに決まってるじゃない!そう叫んだ彼女の頬は赤く染まっていて、目には涙もたまっている。俺は反射的にそんな彼女を抱き締めてしまったところで、自分も彼女に惚れているんではないのだろうかと気が付いた。
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