カイザー#あなたのといるとパラダイス | ナノ
ピポパ、無機質な機会音がメロディーを奏でる。聞きなれた通信中のコールが鼓膜を満たしていった。相手が出る間に私はベッドに寝転がり、足を力なく投げ出すと履きなれたパンプスが音を立てて転がっていった。真っ赤なルージュ。あの人が買ってくれたパンプス。いつも履いている所為で、私と相性が悪かったヒールも今ではなれたものだ。一体電話の向こうの彼はいつになったら出るのだろうと思えば、7回目のコールで受話器が取られた。名前を言わなくても、私の声で彼はわかってくれたようで。というか、そこまでの仲ということなのだ。彼は不思議な人物だ。どんな嫌なことがあったとしても、彼に会ってしまえばそんなことはふっとんで忘れてしまう。逆に言えば、彼に会えないと嫌なことは中々忘れられないのだから、会えない日が辛い。だからそんな日は、せめて電話で声が聞きたいものなのだ。受話器の向こうで発せられた、どうした、と言う彼の声が甘美に私を癒してくれる。


「特に用は無いの。ただ声が聞きたかっただけ」
「そうか。俺もだ」


どうしてこうも彼は私を魅了してしまうのだろう。いつも私は彼に見つめられてしまうだけでドキドキする。あんな海のように青い瞳で話しかけられてしまえば、NOとは言えなくなる。そして抱き締められてしまえば、あなたとどこか別世界に居るかのように幸せになってしまうんだもの。
用は無い。本当を言えば怖かったのかもしれない。毎日が人の波に飲まれてしまいそうな日々を過ごしていて、中々あなたに会えないし離れてしまう恐ろしさを訴えることもできやしないのだから。でもそんなことを言ってしまえばあなたは必要以上に私を心配する。だからそれは言わないことにしておこう。でもただ私は、あなたの声を聞きたかった。そういえば以前彼の優しさが怖かったときもあった。それは精神的に不安定だったからということもあったかもしれないが、あなたの全部が嘘に思えてきたことがあったのだ。でも彼はそのとき優しい言葉で私を包んでくれて、本当のことを言ってくれてうれしかった。思い返せば、私はあなたに依存してしまっているのかもしれない。


「すごく会いたいわ」
「週末までの我慢は?」
「出来そうに無いみたい」


だって私の身体は今にも勝手にあなたの元へと進んでしまいそうなほど、あなたに会いたがっていて。もっとあなたが欲しい。ドキドキしたい、見つめられて熱くなりたい。こんな風に人を思うことができるのは、あなただけなのよ。寂しいからじゃない、あなたと居ると幸せになれるの。だから今すぐにでも会いたいのよ。抱き締めて、見つめて、あなたと幸せになりたい。だってあなたは私を幸せにしてくれる、たった一人の人なんだもの。やっぱり無理ね。会いに行くわ、とルージュのパンプスにもう一度足を通して玄関のオートロックの扉に手をかけたら、そこにはケータイ片手に立ちすくしているあなたが居た。わたしだけじゃない、結局あなたも私に依存してしまっているのか。


「悪いな。俺のほうが早かった」
「そうね。でもそれ誇ることじゃないわよ」
「会いたかったのだろう?」
「ええ、会いたかったわ」

そう、いつだってあなたは私にそうさせてしまう。

AUTOMATIC
(あなたに抱き締められるとパラダイスに居るみたいね)

うたださんのオートマティック
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