カイザー#よくわからない話 | ナノ
全部全部、要らない。こんな薄汚れた世界に溢れるものは、くだらない言の葉や意味の無い思惑ばかりでそれが全てを汚していく。けれどそれを吐いているのも薄汚れた人間であって、それによって汚れていくのも人間だ。実に人間の哀れさを表した負のスパイラルであるのと同時に、そのスパイラルの中に閉じ込められている一人の人間が自分でもあるのだ。これは滑稽だと笑うことしかできない。世界の全ての真を要るものとし、世界の全ての嘘を廃棄処分にするとしたのなら、一体世界のいくつの存在物が残るのだろうか、と考えてみたが想像したものは今にもどろりと溶けてしまいそうなほど脆い世界。どんな世界かは霞掛かったかのようにしか映し出すことはできないけれど、たった一つだけはっきりしていることはある。その世界には必ずと言っていいほど私は存在していないということだ。


「お前は嘘が上手いな」
「あなたは純粋ね」


私が口から出す言葉は自分でもわからないくらいに嘘で染まりきった、薄汚れたどころではない代物である。例えるならば、少しでも触れたものを腐食に追いやってしまう猛毒ガスと言うところだろうか。私ですらいつ嘘を吐いているかわからないものだから、誰が腐食していってるのかさえ、皆わからずに染まっていく。自分を中心に負に染まる景色、なんと素敵なことなのだろう。煌いていた瞳が光を失い、活発だった言動は力を損ね、直線的な思考力でさえ削げ落とされる。私はそんな人物たちの間違った覇気の方向に進む姿が大好きだ。自ら破滅に足を突っ込み、知らぬ間に何処までも続く奈落の底へと突き落とされて行く、そんな姿はなんとも煌びやかな花火が見せる最後の瞬間ほど美しい。


「亮は、美しいわ」
「お前のほうがよっぽど」


そう、落ちていくものほど美しいのだ。ゆっくりと触れた手さえ何時の間にか泥に浸かっているかのように汚れていて、人間はいつもそれを見てみぬフリをする。自分自身を守るため?いやそれは違う。自分を正当化させたが故、だ。自分自身を正当化させて、この世界で真っ直ぐ歩いているかのように周りに錯覚させるため、だ。それを無駄なことだと気がついていないのだから人間は実に滑稽なのだ。だってこの世界で真っ直ぐ歩くなんて、できやしないことなんだもの。世界事態が歪んでいるのだから。嘘は全てを歪ませていく。だけど嘘を作り上げるのは世界だ。そうして嘘で世界、全てが歪んで行く。さて、一体このスパイラルは何処から始まったのだろうか。それは毒牙を振り放つ私にもわからないこと。一体いつだろうか。私が吐く言葉が嘘に染まり始めたのは。私は歪んでる。だからこそ、歪んでいるものが美しく見える。できることならば、全てが崩壊しかけた世界とやらに一生を過ごしたいものだ。


もしその時は、純粋ながら知らずに毒牙に掛かる、美しき彼も連れて行きたいものね。


POISON
(そしてまた私は彼に愛してると嘘を吐くのだ)
--------------
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -