覇王#恋い焦がれる | ナノ
低く酷く艶っぽい声色。そんな声で私の名を呼ぶのは彼しか居なくて、呼ばれた通りに彼の元へと仰せ使えば、いつも通りの重そうな鎧を鈍く輝かせた彼が大きすぎるイスに腰掛けていた。目の前に居る者、いや彼の視界に捕らえられる者に対して発せられる無言の威圧的なオーラは、敵味方関係なく身を震え上がらせられるほど強いもので、彼覇王の前に立っている私もそれは例外ではない。彼は私に危害を加えないと頭ではわかっていながらも、その圧倒的過ぎるオーラはやはり私ですら怖れるものがある。少しでもそれを軽減させるためなのか、私はまた無意識のうちに瞳を逸らして彼から逃げようとしていた。そんなことで彼が逃がしてくれるはずも、無いのに。いや、少々言い方が悪かったかもしれない。私は別にこの場から逃げたいと言うわけではない。だたそのオーラから逃げたいというだけなのだ。


「なんでございましょう覇王様」
「呼んだだけだ」


発せられた言葉とともに彼の放つその威圧感が、急激に増した気がした。きっとそれは、何も用は無くてもこの場から帰るなという無言の彼からの訴えだ。一体このやり取りは今までで何回あっただろうか、数えることができないくらいの数に自分自身驚いた。私が帰ろうとしないことを目認したのか、覇王の圧力は少し弱まった。それに安堵して伏せていた瞳を上げれば、真っ直ぐすぎる彼の瞳に捕まる。金色の、真っ直ぐな瞳に。その宝石のように輝く瞳は、覇王という名には如何許りかそぐわない物で、だけど優しさを閉じ込めたようなその塊に私は少し好感を抱いていた。だからその瞳に捕まるたびに私の胸はドクリと跳ねる。それは一瞬の緊張や恐怖から来るものではないと了得しているつもりだ。だから覇王の放つ威圧的なオーラから逃げたいのかもしれない。全てを見透かされてるような気持ちに追いやられてしまうから。でも私は彼から離れたりはしない。彼が私を放してくれない限りは。


「この命消えるまで貴方と供に」
「ああ」


私は何も願ってはいない。彼の隣に居る間は。というよりこれ以上望むものは無いのかもしれないだけなのだが。それに逆に言えば覇王の威圧的オーラに宛てられるだけでも幸せなのかもしれない、だってそれは彼が私を意識的に認識しているということだから。
けれどもせめて私が彼のその瞳に見つめられたいと考えていることを、彼自身に気づかないで欲しいというのは我が侭だろうか。

(10の狭間)
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