万丈目#漫画版万丈目 | ナノ
(漫画の三沢VS万丈目のシーン)

ソリッドビジョンのはずのドラゴンが高く舞い上がり、上空を華麗に羽ばたいた。その光景は自らのデュエルを忘れさせられるほど、夢中に食いついてしまうほど、目を奪われる存在感であり、それも久しぶりに目にしたものだから、彼がこのドラゴンをいつのまにデッキに入れていたことに驚いた。久々に見たそのドラゴンは相変わらず身を震わせるような輝きを放っており、きっとこのドラゴンを召喚した私の幼馴染は確実に勝利へと導かれるんだろうと思わざるを得なかった。いや昔のことを思い出すと、彼がこのドラゴンを召喚したときは必ずと言っていいほど、勝利のフィニッシュを決めている。つい最近遊城十代に負けて落ち込んでると思っていたが、やはり彼はそんな柔じゃなかったらしい。
彼の強気な台詞を吐きながらの勝利のアタックを想像すると、どうも私が嬉しくなってしまい思わず笑みが零れる。私も目の前のコイツを片付けて、早く彼の勝利を目にしたいものだ。ドローしたカードを祈るように手札に加えると、それは私の勝利を決した運命のカードで。容赦ないダイレクトアタックをして相手のライフは底をついた。相手に慰めの言葉一つかけるよりも早く彼の元へと行きたくて、ただ一言お相手ありがとうと残して、私はドラゴンが見えた海岸付近へと走り出す。願うことは彼の勝利よりも、彼の勝利がまだ確定していないということだけだ。


「迎撃しろ!ライトアンドダークネスドラゴン!」


フィニッシュを決める彼の台詞とドラゴンの攻撃が、昔の彼と重なった気がした。準の相手をしていた三沢君のモンスターを、文字通り迎撃したおかげで三沢君のライフは無くなった。ラストだけしか見ていない私は、二人が今までどんな風に戦っていたかはわからなかったけれど、終わったあとの二人が交わしていた言葉からするにきっと互いに全力を出し切った結果なんだろう。どうせなら最初から見ていたかったな、と叶わぬ希望が頭を過ぎった。ぴっちりと皺一つ無いブルーの制服が風に靡き、彼は颯爽と三沢君に背を向け歩き出す。彼が向かう方向にはちょうど私がいて、私を視界に入れた彼に思わず手を振った。振り返しはしてくれなかったが、彼が私に向けた顔は心底満足している様子で、この学園に来て初めて彼のこんな顔を見たのかもしれない。


「見ていたのか?」
「うん。ラストのフィニッシュのところだけだけどね。それにしてもライトアンドダークネス、懐かしかった」
「だろう。俺は決めたんだ。こいつとともに歩んで行くことを」
「そっか。よかった」
「何がだ」
「だってさ準ってば、今まで全然楽しそうじゃなかったもん」


全然デュエルしても楽しそうじゃなかったから。デュエルとライトアンドダークネスが嫌いになっちゃったのかと思った。そういったら準は驚いたような顔をこちらに向けた。心配かけて悪かったな。そういった準はきっと、私が黙ってても自分を心配していると気がついていたからだろう。いつだって私は準が心配だった。あんなに楽しそうにしてデュエルをしていたというのに、アカデミア入学が決まってあんなに喜んでいたというのに、入学してからの生活で彼は変わってしまったのだから。周りがどんなに彼を罵ろうがどうだっていいことなのに、自分を認められたい挙句自分を追い詰めるようなデュエルをする彼が心配でならなかった。だから遊城十代に彼の連勝を止められたときだって、彼がどうなってしまうのか心配だった。まあ昔の楽しさを取り戻したようで、その心配も今はなくなったんだけど。


「俺は上に行く。何があっても」
「うん、がんばって。準なら行けるよ」
「だから、お前も来い」


どんな形でもいい、できるなら俺の隣に居ていてくれ。そういった彼のやさしい顔は、どこか懐かしい感じがした。


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