十代#新たな出発 | ナノ
さらりと春風が私の髪の毛を優しく撫でた。つい最近までは雪景色が当たり前だったという冬はとうに過ぎ去り、私には春がやってきた。冬の冷たい太陽の日差しは、何もかもを包み込む温かい光へと変わり全てを溶かし込むかのようだ。足元を見つめれば懸命に花を咲かそうと頑張っている小さな花のつぼみや、永い眠りから覚めて活動を始めだした小さな虫たちが実に気持ちよさそうで、全てが春を実感させられる一ページ。なんだか新しい一歩を踏み出す私たちを祝福してくれているようで、微かに目に涙が滲む。だめだ、最後だから泣かないようにって決めたのに。たくさんの人たちとの出会いがある代わり、私たちには別れが待っている。そう、このアカデミアにも卒業という日がやってきたのだ。長かったようで思い返してみると短いような気もするこの三年間。辛いこと、楽しいこと、笑ったこと、泣いたこと。この三年間でドキドキワクワクしなかった日々は1日たりともなかったような気がする。普通とはいえない高校生活だったけれど、最後に思い返してみると笑って話せるいい思い出話だ。この島ともたくさんの時を過ごした仲間たちとも、もう今日でお別れ。寂しくないといえば嘘になるが、この先私には何が待っているのか、それは楽しみであるのだ。いや、「私」ではなく、「私たち」かな。


「ほら、置いてくぞ」
「あ、ごめん。まって十代!」


三年間の思い出、気がつけば君が私の隣にはいないことはなくて、やっと私たちは自分の思いに気がついたよね。ずっとすれ違ってばかりだったけれど、やっとお互いの手を取り合うことができたよね。駆け寄った十代の手のひらは私のなんかよりずっと大きくてたくましくて、ドキドキした。いつだって私を庇ってくれた。いつだって私を守ってくれた。いつだって私を救ってくれた。十代、十代。お互い一緒に歩いて行くと誓ったよ。みんなに別れを告げずに離れて行くのは少しだけ寂しいけれど、きっとみんなほんとは気がついているんだよ。最後に見たみんなの顔を思い出した。お姉さんみたいに優しかった明日香。意地っ張りで怒りんぼで、でもいいヤツだった万丈目。いつのまにか頼りがいがある強さを持った翔くん。こらえきれなくなった涙が頬を伝って落ちた。ゆっくりと十代がその涙をすくってくれて、その優しさに余計に涙が零れた。


「また会えるさ」
「うん。そうだね」
「俺たちの新しい道を探すんだろ」
「うん。また、いろんな人に出会えるよね」


「それにさ、一度繋がった絆は簡単に切れねーんだぜ」


その十代の言葉がすごく力強かった。私は十代の手を硬く握り締め、前を向いた。これから何があっても大丈夫。十代と一緒に何があっても駆け抜けて行くんだ。真っ直ぐ真っ直ぐ。別れに涙を呑み、出会いに笑顔を添え、握った手はきっと離さない。

私たちは新しい春の風に飛び込むの。

(いつかまた。)

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