十代#バレンタイン | ナノ
今日は女の子が妙に騒ぎ出す、好きな男子に固めたチョコを押し付けて自分の想いを伝えるという、なんとも自分勝手なイベントの日である。私も毎年それなりにそのイベントを楽しんできたが、今年は少し違った。いやいろいろ違ったんだけどね。まずひとつは毎年友チョコだけで済ましていたけれど、なんとめでたく彼氏ができてしまったのだ。だから彼には絶対あげなければならない、と友達や周りから圧力がかなり掛かっていた。ふたつめは、そんなに圧力が掛かっていたというのに、私は彼へのどころか友チョコさえも用意し忘れていたのだ。しかも当日、彼にチョコをくれと手を伸ばしておねだりされた時にやっと気づかされるなんて、我ながら泣けてくる。


「違うんだよ十代、用意しないつもりじゃなかったんだけど…」
「うそだろー!?お前からのチョコ、何日も前からワクワクしてたのに」


チョコがない、そう告げられた十代は大きく目を見開き、ありえないものを見つめるような視線を私に浴びせてきた。いや実際私はありえないことをしたんだけど。ごめん、十代。まさかそんなに楽しみにしてくれたなんて夢にも思っていなかった。恋人同士のイベントをこんなに甘く見てた私は馬鹿だ。ごめん十代、お願いだから床にすがりつくように悔しがるのは、せめて止めてくれ。すごい罪悪感に襲われるじゃないか。


「ありえねー」
「ご、ごめん」
「じゃあ、今から作ってくれよ」


そうじゃん、今から作ればいいじゃん。十代の言葉に気付かされた私は、今から材料買ってすぐ作るねといって家を飛び出した。必要な材料を買ったときに、作った後そのまま食べるんだからラッピング代浮くじゃん、なんて一瞬でも考えちゃった私は最低だと思う。だめだ、もっと申し訳ない気持ちでいっぱいにしなきゃ。家に帰ったら十代が玄関まで足音を大きく立てながらかけてきたもので驚いた。しかも瞳はものすごくキラキラしてるし。こんなに期待されてたら嫌でも失敗できない。私は引きつる口元を押さえながら、材料をキッチンまで運んでくれた十代にお礼を言って、チョコ作りの製作に取り掛かることにした。


「十代」
「ん?なんだよ」
「いや、あの。すごくやりにくい」
「気にすんなって」


気にするなというのが無理だ。一体何が起こっているのかというと、チョコを湯銭にかけている私の身体を後ろから抱き締めるかのように、十代はぴったりくっついて離れないのだ。わき腹辺りに十代の腕が巻きついている所為で、チョコレートをかき混ぜるゴムベラのスピードが遅くなる。あっちのソファで待っててくれればいいものの、何故こんなに十代は私に引っ付きたがるのだろうか、なんて考えながら混ぜているときちんと見ていなかったため、ボウルが傾き私の人差し指にチョコレートがコーティングされてしまった。自分で舐め取ってしまおうとした瞬間、突然腕を取られて持っていたゴムベラを離してしまう。もちろん私の腕を取ったのは十代で、一体何をするのだろうかと思えばさっきまで私がやろうとしていたことだった。ニヤリ、という顔を私に向けて、彼は私の指についたチョコレートを舐めとり始めた。それも、卑しく、やらしく、ねっとりと。おいおい何をやらかすんだ、呆気にとられてる私をいいことに十代は、もうすでにチョコが取れた私の指をまだしゃぶり続ける。やっと口を離した十代の顔は実に妖しい。その表情を見たと同時に、嫌な予感が脳天を走った。


「やべえ、美味い」
「馬鹿」
「なあ、」


残りもこうやって食べようぜ、耳元で低く囁くように十代は言った。私の嫌な予感は見事的中して、十代からの甘い囁きからはどうやら逃げ切れないようだ。
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