ヨハン#プロポーズされる | ナノ
アカデミアを卒業してから私たちは二人暮しを始めていた。別に結婚してるって訳じゃないけど、ヨハンが留学で本校に行っちゃってから、改めて二人の距離を寂しく感じた私が帰って来た彼に同棲を誘ったのだ。もう私たちは子供じゃないし、ヨハンなんて卒業してからプロ入りが決定していたもので、案外同棲はいいスタートを切れたんだと思う。ヨハンがプロの世界で人気を上昇させて稼いでいる間、私は大学でデュエル学を学びながらアルバイトをして頑張っている。お互いの両親からなんにも援助がなくても、二人で笑って過ごしていける日々が楽しくて仕方なかった。
大学の授業を終え、家に着いた私は鍵を取り出し扉を開けたところで、ポストを覗くのを忘れているのに気がついた。そういえば最近ポストに入ってくる結婚式場のチラシがやけに多い。どこでその年頃の私たちがここに住んでいることを仕入れてくるのやら、配達員たちには困らされている。要らないチラシなんか貰っても一つもいいことなんて無いんだから。パカリとあけた私たちのポストには、やっぱり今日も結婚式場のチラシが入っていた。でもこれだけ入れられると、自然と結婚について考えさせられてしまう。男性が地に片足つきながら屈み、驚く女性に指輪を差し出す写真のチラシ。きっとプロポーズのシーンなのだろう。結婚、ねえ。私とヨハンはもう付き合って二年は経つ。離れていても私たちは信じあって愛し合っていられたんだし、もう結婚してもいいんじゃないかななんて安易に考えが浮かんだ。でもだめだ。真面目で真っ直ぐなヨハンがただそれだけで私との結婚を決意するはずがない。打ち消した理想に小さく溜め息をつきながら数枚の式場お知らせのチラシを退けると、私宛てで差し出し人が無記名の手紙があった。


「…誰からだろ」


思い当たる人は誰も居なかった。まあ開けてみればわかるか、と納得し私は少し荒く封筒を破いて行く。でもなんで私がここに住んでいることを知っている人が居るんだろう。両親と友人たちには伝えたが、用があればこんな手紙じゃなくてメールで済ませるだろうし。破れた封筒の隙間から半分に折りたたまれた便箋を取り出して開けば、どこかで見たことがあるような字体で文字が綴られていた。たった一行。


「『I LOVE YOU』…?なにこれ?」


理解できなかった。というより理解するのに必要な材料が全くもって欠けていたからであるが。I LOVE YOU?これは私に向けられたメッセージであるだろうが、一体誰からなのかがわからない。開いた便箋にはたったその一行しかなくて、FROMの欄は未記入。頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていると、突然玄関チャイムが鳴り響いた。誰かが訪ねてきたようで、私は謎の封筒と便箋を机の上に放り出して駆けて行こうとした。そしたら金属が落ちるようなカチャンと言う音が後ろから聞こえたかと思ったら、投げ出した封筒の中から小さな指輪が転がり落ちてきたではないか。驚きでその指輪に駆け寄って行くと、見るからに高そうな装飾が施されていて、こんなものを封筒一枚で送りつけてきたなんて扱いが酷すぎる気がする。その指輪に呆気に取られていると、チャイムが私を急かした。右手でそれを握り締めながら私は玄関へと向かうと、扉を開けた先にはヨハンが居るではないか。


「どうしたの?鍵、忘れたの?」
「いや、そうじゃないんだけどな」
「あ、そうだ。さっきさ変な手紙が着ててさ、封筒ん中に高そうな指輪が入ってたの。もう吃驚。一体誰の仕業なんだか」
「俺」
「へー、そうなんだー。

……って、は?え?ヨハンなの?これ送ってきたの」
「そう、それで指輪は?」
「ここに…、あるけど…?」


まさかこの指輪を送りつけてきたのがヨハンだなんて。まだ私が理解に苦しんでいる中、ヨハンは私の右手から指輪をとって、その場で片足を地に付け屈んだ。待った、待った、そのポーズって。


「俺と結婚してください」


先ほど見つけた結婚式場のチラシと同じだった。まさかヨハンがプロポーズしてくれるとは。もしかして夢じゃないかなと頬を思いっきり抓ってみたら痛かったし、そんな私を見たヨハンは笑っている。そんな驚くことかよ、なんていいながら。驚くに決まってるじゃない。だってデュエルバカで真っ直ぐで真面目なヨハンが私と結婚を考えていたなんて思いもよらなかった。嬉しさで涙が滲む視界の中、ヨハンは笑顔で私の手を取り指輪をはめていく。
あれだけ式場のチラシ見せられたら考えないわけないだろ、と彼は言ったので、私は心の中で式場チラシを届けてくれた配達員に感謝した。
まさか私に指輪とともに結婚までもを届けてくれるなんて。

淡い指先
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