覇王#消えるなんてね | ナノ
きっと私はいつもデュエルという行為を甘く見てたんだと思う。ただ笑顔で、笑って、楽しく相手と触れ合う、そんな遊びだって。ううん、今までそう思って過ごしてきたんだもの。だからその甘く見ていたツケが返ってきたのかもしれない、私は自分の身体から力が抜け、光に包まれていくような感じを身体に受けながら、思った。負けた。負けたんだよ私は。愛しい愛しい変貌してしまった恋人に。デュエルに対する甘さと、いくら変貌しても恋人は恋人だと信じて疑わなく、その豹変した心を取り戻せるはずだと過信してデュエルを挑んでしまったのがそもそもの間違いなのだ。馬鹿だ、馬鹿だ私は。恋人の心を取り戻すどころか自分が消えてしまう運命になってしまったのに。異世界で消えるってことは、死ぬって事と一緒なのかな。どこか次元の狭間に閉じ込められちゃうのかな。でもどっちだとしても結局は私が消えてしまうことなのだから一緒であるに違いない。徐々に空気に混じっていく体が憎い。十代はすぐそこなのに、腕が動かないんだもの。最後に抱き締めたかったな。例え中身が冷徹な覇王だとしても、一瞬でいいから触れたく思った。


(なんで私、こんなにデュエルを軽く見てたんだろ)


だった一ゲームでどちらかが消えるなんてこと、この世界に来てからきちんと理解していたはずなのにな。なんて考えてたら十代が覇王になってしまった理由がわかったような気がした。きっと十代は笑って楽しめるデュエルを後悔したんだ。自分自身を賭けて挑むデュエルに、仲間が消えていってしまった無責任な自分に。何かを背負ってデュエルすることを放り出してしまった、だから覇王なんかに…。薄れて行く視界の中、誰かが私に近づいて来た。って言ってもこの覇王城の最上階にはさっきまでデュエルをしていた私と覇王しか居ないのだから、必然的にその人物は特定できるのだが。小さく金属が擦れるような音を鎧から響かせ、覇王となった十代が金色の瞳で私を見下ろしてくる。本当に態度が覇王という名に恥じない行動をしてくるものだ。もうなんだか優しい笑顔の似合う十代が思い出せなくなってきた。


「あなたは…わたしのすきなじゅうだいじゃ、ない」
「何が言いたい」
「はは、、ひとをにくんで、きえていくんだ、わたし。わらえる」


キレイな金色が少し揺れた気がした。俺を憎んでいるのか。おかしいな、覇王の声が少しだけ震えてる気がする。私には彼が何をしたいのかわからないけれど、彼は私の傍にしゃがみこむ。重そうな鎧がまた音を立てた。何故だか私の頬をやさしく撫でてきて、その行動が嫌でも十代を思い出させてくる。やめてよ、やめてよ、ねえ。そんなことするくらいならさ、私の十代返してよ。声にならなかった。


「消えるのか」
「あなたがいちばん、しってるじゃない」


一体何を言い出すのか。ここで覇王という立場を過ごしてきたあなたが一番理解しているはずなのに。ああ、なんやかんやしてたらもう本当にお別れの時間だ。重苦しいほどの光がまとわりついてくる。光で溢れていく視界の中、哀しそうな覇王の表情が入ってきた。そして引き止めるかのように私に向かって手を伸ばしてくるではないか。やっぱり、こころが死んでしまっても十代は十代なのかもしれない、私は消えてしまう一歩手前でやっと彼の心の触れることができたのかもしれない。よくよく考えてみれば、これは私にとって最高のエンドではないだろうか。愛する人の心を取り戻すためデュエルを挑み、愛する人に大好きなデュエルによって消されて行くなんて、最高のストーリーじゃないの。でも悔やむことがあるとすれば、デュエルに対する私の甘い認識と、


「じゅうだいのこころ、とりもどしたかった、な」


最期に想うのは
(私は知らない、覇王が最後まで私を掴み取ろうとしていたのを)


昔誰かが言ってた気がする。大切なものは、心からは絶対に離れない。大切なものは、失ってからその大切さに気付くって。ねえ、十代じゃなくて覇王の心の中には、私は居たのかな?
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