ヨハン#遠距離は不安 | ナノ
寝ぼけた瞳でけたたましく鳴り響く携帯電話をとれば、着信音より騒がしい声が聞こえてきた。

「よう!元気にしてるか」

うん、元気にしてるよ、とそう言ったつもりだったが寝起きの所為か声が全然でなかった。そういえばヨハンからの電話は久しぶりだし、彼の声を聞くのも久しぶりだ。所謂あたしたちは遠距離恋愛というやつをしていて、なかなか会うことも出来ないし距離が遠すぎて電話をかけることもあまり出来ない。だからこれだけで繋がっているあたしたちは奇跡に近いものがあるんじゃないかって思う。ぼーっとするあたしの頭の中には、あたしが返事をしないのをいいことにひとりで喋り続けるヨハンの声が、ぼんやりと入ってきていた。

おーい、聞いてんのか?そっちは今冬休みなんだよな。雪とかふってんのか?風邪ひいてねえか?俺はめっちゃ元気だから心配すんなよ。思ったんだけどさ、俺たちって付き合って結構経つだろ?そろそろお前の親御さんにあいさつ行ったほうがいいって十代に聞いたんだけど、今度会いに行くよ。そんときはさ一日中一緒に居てさ、会えなかった時間の分だけ騒ごうぜ。日本のこと良くわかんないからお前の行きたいところ行こうぜ。どこだってついてくからさ。あー、早く会いてぇ。今すぐ抱き締めてぇ。てかさ、どれぐらい俺たち会ってないんだ?お前から一回も電話かけてきたこと無いよな。結構寂しいんだぜ、それ。俺ばーっかり好きなんじゃねぇかって。なあ、俺お前のこと好きだ。死ぬほど好きなんだ。お前のそういう素っ気ないところにも惚れたわけでもあるけどさ、たまに不安になる。

あたしが一回も相槌をするわけでもないのによくここまで一人で喋れるものだ。ヨハンは馬鹿だ。頭いいくせに、乙女の気持ちの欠片すらわかっていない。ヨハンはあたしと会っていない期間うろ覚えなのに、あたしはちゃんと数えてるし、ていうか嫌でも分かる。もう254日も会ってないんだよ、知ってた?あたしから一回も電話をかけないのは、怖いからだ。声を聞いてしまうと死ぬほど会いたくなってしまうことを知っているから、怖くて怖くて仕方ないのだ。それでも誘惑に負けて彼からの電話を取ってしまうのは、会いたくて仕方ないという気持ちの表れなのに。

「ヨハン、あたし会いたくて仕方ないよ」

今あたしに羽があるなら今すぐ飛び立ってヨハンの元に会いに行きたい。もし会えたなら、思いっきり抱き締めたい。ヨハンとなら何処だっていい、一日中手をつないでいたい。寝ぼけていたからそんな風に素直に全てを言えたのかもしれない。自分でもわけがわからなくなってきたとき、あたしを引き戻すように玄関のチャイムが鳴った。髪も部屋着もぐちゃぐちゃだけどやけになってそのまま出たらヨハンが居た。おもわず「はあ?」と変な声を出してしまった。あれ、なんでヨハンがいるの。

「ほんとは昨日からこっちに居たんだ」
「じゃあ、なんで昨日、来てくれなかったの」
「だってさ、さっきも言ったけど不安だったんだ。ずーっと会ってないのに俺のこと、好きでいてくれてんのかなって…」

だからさっきのお前の言葉聞いて死ぬほど嬉しくて、会いに来た。悪い、と困ったように笑うヨハンがなんだか可愛くて、力いっぱい抱きついた。

これからはもっと電話しようぜ。そのほうが寂しさを感じないと思うんだ。うん。たくさんしよう。それでこんどはあたしのほうから会いに行く。マジか。会いに行くのも楽しみだけど、待ってるっていうのも楽しいだろうな。てかさ、高校卒業したら『結婚』しようぜ。

「そんで一緒に暮らせばいいと思うんだ。」

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