万丈目#素直じゃない | ナノ
ナイルブルーを思わせる大空の下、私はこの瞬間を手に汗握って震えそうになる足を押さえるのが精一杯だった。



もう一度見間違えが無いか、握り締めるその紙を見つめてみたが、くしゃくしゃになった紙を開いてみるとやっぱり先ほど書いてあった文字と何ら変わっていなかった。ちくしょう万丈目め、ケータイメールが主流のこのご時世に手紙で呼び出すだなんて一体どういうことなんだ。私の下駄箱に入っていた手紙は万丈目からのもので、内容は授業後に体育館裏に来いということだった。書いてあったのはたったその一言だけだったが、これだけはわかる。この呼び出しは決してラブいものではない。むしろ憎しみを込めて送ったものだと思う。だって万丈目に呼び出される理由を考えてみると、思い当たりすぎて怖いんだもの。一体何を仕返しされるのだろうか、今すぐこの場から逃げてしまいたいと考える脚は震えが増してきた気がした。いや、考えてもみよう。もしかしたらこうしてあたしを待たせること自体が彼からの報復というやつなのかもしれない。だったら素直に待っている必要は皆無じゃないか。よーしそんじゃあ帰ってしまおう、とこの迫り来る苦痛から逃れようと決心したとき、いきなり腕を掴まれた。嫌に冷や汗が額を伝っていって、振り向けば案の定万丈目がいた。

「や、やあ万丈目君」
「なんだその気持ちが悪い喋り方は」
「いえ、何でもありません。あの、ご用件をどうぞ」
「貴様が敬語を使うと気味が悪い」

私が敬語を使うのがそんなにおかしいのか、あからさまに嫌そうな顔をして万丈目は私を見下ろしてくる。嫌な顔をしたいのはこっちの方だというのに。握り締めていた彼からの手紙をかざし、一体これはどういうことなのか尋ねてみた。声が震えてなかったことが唯一の救いだね。すると彼は真っ直ぐと私を映していた瞳をずらし、何やら口元をもごもごとさせているところを見ると、私に伝えたいことがあるらしい。うわ、やっぱり万丈目に怒られるんだ、とどん底に落ち込みかけたとき、彼が言いかかっていた言葉をついに紡いだ。私の耳に飛び込んできたのは予想もしていなかった言葉だった。

「隣のクラスのやつからの告白、断ったのか?」
「は、…い?」
「断ったのかと聞いている!」
「え、何でそんな怒って…。こ、断ったけど、ななんで?もしかして用ってそれ?」

万丈目にそう言われて思い出した。昨日隣のクラスの人から告白とやらを受けていたことを。たいして話したことも無かったし、好みと言えるルックスでもない人だったから気持ちだけ受け取っておくと言って断ったんだっけ。あれ、なんで万丈目がそんなことを知っているんだろう。いやそれよりもなんで万丈目はそんなことを聞いてきたのだろうか。私になにか恨みやら憎しみを込めて呼び出したんじゃあなかったのか。ふと見上げた万丈目の顔は心底安心しきったような顔をしていて、どうしたの?と聞いてみればその顔が一瞬で真っ赤に染まった。え、なによその反応は。

「ま、万丈目?」
「う、うるさい、こっちを見るな!」
「はあ、何それ、わけわかんないんだけど!」

呼び出しといてわけのわからないことを聞いておきながら、心配している私に対してその言い分は何だというのだ。いい加減カチンと頭にきた私はスクバを持ち上げて帰ることにした。こんな下らないことで呼び出すんだったら思いっきり罵られた方がマシだったわよ!と捨て台詞を忘れずに。

「おい!待て!」
「うわっ!」

彼に背を向けてその場を後にしようとしたとき、思いもよらない馬鹿力で肩をつかまれ振りかえらせられた。この男は口の聞き方どころか力加減もわからないというのか。振り返らせられたまま彼はそのまま私の肩を放すことのなく、近くの壁に押し付けられた。一瞬で理解できるほど私の脳味噌はよく出来ていないため、壁に背中を叩きつけられたのと同時に自分の唇に触れたものが何がなんだかわからなかった。

「ち、違う!」
「え、あ、へ?」

順番を間違えた!と真っ赤な顔をして万丈目が言うもんだから、先ほどの怒りなんてどこか遠くにすっ飛んで行っていて。半分涙目で、告白するために呼び出したんだ、さっきのはとっさのことで許してくれ、と訴える彼にときめいてしまったのを嘘だと思いたい自分がいた。

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