吹雪#さすが恋の伝道師 | ナノ
自転車を押す彼女の姿を見て僕の足は勝手に駆け出していた。やあ偶然だねなんてお決まりの台詞を添えて、勉強をしに来たと言う彼女と、来るつもりなんてさらさらなかったけれど僕は一緒に図書館の中へ入っていった。今の時期、外はもうすでに冬色一色に染まっていて、この建物から見える景色も、寒さからか血色の悪い彼女の指先も真っ白だった。その真っ白な手にそっと自分の手を添えてみたらやっぱり冷たくて、でも彼女からすると僕の手の暖かさを感じられるわけで、吹雪の手暖かいねと僕を見上げるように彼女は言う。そりゃさっきまで手袋してましたから。家を出る際、明日香が僕に寒いからと言って手袋を押し付けてくれたことを感謝した。

「吹雪も勉強しに来たの?」
「ん?まあ、そんなとこかな」
「そうだ。わかんないところあるんだけど、教えてくれるかな?」
「もっちろん。何でも訊いてよ」


勉強スペースと位置付けられた場所に腰を下ろした彼女は、首に巻かれていたもふもふとしたなんとも女の子が好きそうなデザインのマフラーを解いた。いままで塞がれていた彼女のうなじを見て、やっぱり白いと思った。いや、白いのはうなじだけじゃあない。彼女の肌は全て透き通るように白くて白くて。こんな雪に塗れた景色に立っていたとしたら同じ白に混じって消えてしまうんじゃないかってくらいに白くて少しぞっとした。白さにぞっとしたのではない。彼女が消えてしまうことに、ぞっとしたんだと思う。しばらくボーっと突っ立っている僕を不思議に思ったのか、ひらひらと僕の目の前で手を振って覗き込んでいた。その指先も、やっぱり白い。

「何かあった?」
「ごめん、なんでもないよ」


白いものを想像しろ、と言われたら僕は真っ先に雪を頭に思い浮かべるだろう。だからだろうか、真っ白い彼女はどうも冷たく思えてくる。いや、さっき触れた体温は実際に冷たいものだったが。問題集と睨めっこをする彼女に勉強を教えながら、そんなことを考えていた。暖房の効いたこの部屋でも暖まった彼女の肌は赤みを増すことは全く無い。まさか本当に冷たいままなのだろうか、気がついたら彼女の頬に触れていてその行動に驚いた彼女はカランとシャーペンを落として止まっていた。

「ふ、ぶき…」
「あれ、そんなに驚くことだった?」
「う、うるさいよ」


戸惑ったような彼女の反応が面白かった。触った彼女の頬は指先とは違って温かくて、触った後の彼女の頬はほんのり赤く色づいていた。吹雪ってばいっつもそう、不意打ちで彼女の言葉が発せられる。ほんと女の子の気を引くことばっかり、なのに周りは何にも見えてない、なんて続けて言葉を綴る彼女の視線は真っ直ぐ僕を捕らえていた。

「わたし、吹雪が、」

「待って」


人差し指を彼女の唇に止まらせると戸惑ったように彼女は視線を揺らす。これ以上は言わないで欲しい。それは歯止めが利かなくなりそうなのと、自分から伝えたいと思ったから。にっこりと微笑んで、耳元で好きだと囁いてから、彼女に口付ける。絡ませた熱が熱くて熱くて離れたくなくて強く抱き締めてたら、苦しかったのか彼女は僕の胸板を叩く。それすらも可愛くて、もっとつよく抱き締める。視界に入った彼女の肌はやっぱり白かった。
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