ヨハン#告白を覗き見るといいことはない | ナノ
かくれんぼしようと友達に誘われて、思わず掃除道具入れに飛び込んだのが間違いだったのだ。あんたが30分逃げ切れたらケーキバイキング奢ってあげるよ、ときっと心の中で私が負けたときの要求を渦巻かせている友人の甘い誘いは、私の不安定な心を傾かせるのには簡単だった。だってケーキバイキングだよ。乙女の楽園だよ。ついでにずっと行きた かったバイキング屋さんに連れて行ってくれるだなんて乗らないほうがおかしいものだ。きっと掃除道具入れなんてあいつにはわからないだろうと勢いで飛び込んでみたのはいいが、どうもこの中は埃っぽい。この中で30分間耐え抜くなんて想像するだけで辛いものに思えるが、ケーキのためなら今空を飛ぶことができそうな私にとっては簡単なものだった。頭の中はケーキのことでいっぱいだ。とろける甘さのガトーショコラ、シュガーを振り撒かれたショートケーキ、バニラが香るカスタードミルフィーユ、いろんなケーキが頭を過ぎっては消えて、また想像で生み出されていく。さっき乙女だなんて言ってみたが、掃除道具入れの中でケーキを想像するのは乙女と言えるのだろうか。そんなこんなしていると、突然教室のドアが開いた音が聞こえた。やばい、私を探しに来たのか、と一瞬身体が強張ったが入ってきた人物を見て、別の意味で身体に緊張が走ることになる。入ってきたのはクラスメートのヨハンと、隣のクラスの美人ちゃん(名前思い出せないや)。おいおい、この雰囲気は告白かよ、と道具入れの扉にあるじゃん?なんか小さな隙間。そこからこっそりと私は隣のクラスの美人ちゃんの告白を見守ることになってしまった。やっぱりヨハンってもてるんだなと改めて思った。確かに見た目カッコ良いし、人当たりも良いし、ついでに頭もいいじゃない。あれ、彼を思い返してみれば完璧な人物じゃないか。こんな身近にそんなすごい人っているんだなあ、とか考えていたら隣のクラスの美人ちゃんが「どうして!」と声を荒げたことで肩が思わず跳ねた。告白の行方は一体どういう方向に進んでいるんだろう。美人ちゃんがヨハンの制服に掴みかかり、(といっても乱暴なものではないが)すがるかのようにヨハンに訴えかけていた。どうやらヨハンは告白を断ったらしい。


「なんで私じゃ駄目なの」
「なんでって言われてもなぁ…」


うわぁ、「なんで私じゃ駄目なの」なんて台詞、漫画とかドラマでしか聞いたこと無いですけど。これって所謂修羅場というヤツなんじゃないか、と思いながらヨハンが一体なんて言葉を続けるのか私は道具入れの中でドキドキしていた。もはやかくれんぼとケーキのことはどうだっていいよね。

一息ヨハンが付くと彼に掴みかかっていた美人ちゃんを引き剥がし、いつに無く真剣な瞳でその子を見つめていた。それにしても勿体無いな、せっかく美人な子が告白してきているんだから一度付き合ってみればいいものなのに。それかヨハンにはちゃんと好きな子がいるんだろうか。それだったら納得がいくな、うん。一人頷く私の耳にヨハンの声が飛び込んできた。「俺、好きなやつがいるんだ」あ、やっぱりいるんだ。そんな彼の答えに美人ちゃんはただでは食い下がらないつもりらしく、誰なのと必死に聞きかけていた。いくら美人でもそんなことしちゃうと醜く見えてくるなあとため息をつきながらも私はヨハンの好きな人が気にかかる。だってあんなモテ男の好きな人なんて興味深いじゃないの。


「俺は、」


ばたばたと美人ちゃんが走り去っていく音だけが私の鼓膜に響く。ちょっと待って、待って、待って。確か、今彼は自分の好きな人を告げたはずだ。じゃあなんで私の名前が紡がれたんだ?あれ、あれ、ってことは、ヨハンが好きなのは、私?混乱する頭で必死に考えようとするが私の容量ではどうも追いついていかない。おもわず前に体重をかけてしまった所為で掃除道具入れの扉が開いて私の身体が倒れる。あれ、なんで私こんなところにいるんだっけ。あそっか、かくれんぼしてたんじゃん。突然私が道具入れから現れたことによって目の前のヨハンは驚きに目を見開いた。そりゃそうだ、掃除道具入れから人が登場するなんて聞いたことも無い。瞬間、ヨハンの顔が一気に真っ赤に染め上がり、慌てたように瞳を泳がす。どうしよう、何か言わなきゃ。混乱する頭で唇に紡がした言葉は、


「は、はろー」

かぶり
(そして友人は顔を真っ赤にした私とヨハンを見つけちゃいましたとさ、めでたしめでたし)
--------------
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -