なぞ#突然襲ってくる虚無感 | ナノ
このまま寂しいキミの背中を抱き締めてあげられたら、どれだけいいことなのだろうか。夜風が冷たく鋭く、星空のしたの私たちの髪をゆっくりと揺らす。見上げた空はたっぷりと肥えた真ん丸い満月が糸で吊るされたように空に浮かんでいて、届くわけもないのに私は無意識に手を伸ばす。じいっと見てるとまるで吸い込まれてしまいそうで怖かった。周りで輝く星たちは小さく揺れているようにも見えて、こんなにも綺麗に見える場所なんてここ以外にないんじゃないかってくらいに、美しく透き通って私の瞳まで光が運ばれている。きっとその星を映した私の瞳は輝いているんだろうな、と見えない自分の瞳を想像した。思い浮かんだのはその星の輝きの奥にぽつんと佇むキミ。しょんぼりとしたその背中、私は何度目にしてきただろうか。だけど一度も声をかけるどころか、こうして少し離れたところで見守ることしかできなかった。指先を少し伸ばすと、触れた君が今にも消えてしまいそうで怖い。


「どうしたんだ?」


ふと彼が振り返り私の存在を彼の瞳が映す。その彼の瞳は力なく輝きを放っていて、どうしようもない思いに駆り立てられた。風にさらわれていく彼の声だって私の届く前に消えてしまいそうなほどのもので、思わず身震いがする。そんなところにいないでこっち来いよ、と彼が手招きをするものだから私は一歩一歩近づいていく。どうしてか私の足は鉄球を取り付けられたかのように重い。隣で見た彼の顔は、空に浮かぶつきとは真逆に少し痩せこけていて、明るい月を恨む。やっぱり近くに来ても彼は今にも消えてしまいそうだ。いや、押しつぶされてしまいそう。


「ごめんね、」
「何がだよ」
「私、何にもできない」


そう、何もできない。彼の恋人でありながら彼の悲しみに気付くことも、その苦しみから解放してあげられることもできないし、あなたを優しく抱き締めてあげる勇気すらもないのだ。なんで彼はこんなに苦しいのだろう。なあ、と私の名前を呼ぶ彼の言葉に私は一瞬肩を震わせる。そして必死に聞き取ろうとする。お願いだから消えないでと。夜空で星が私の涙のように流れる。そして彼は、何もしないでいいからお前だけはずっとそばに居てくれよ、と私を見ながら悲しそうに笑うのだ。
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