エド#慰めるエド | ナノ
失恋した女は、以前よりも強く、美しくなるって誰かが言ってた気がする。きっとそれはただの言い伝えのようなそんなもんじゃない、だって現実に目の前にしているこいつは、たった一日を挟んで綺麗になっている気がした。海水に浸したしなやかな白い足筋も、月光に照らされた黒く長い夜風に靡く髪も、昨日お休みを交わした彼女とは全く違うように感じられた。彼女は美しくなったけれど、持ち合わせている表情は固く多少の憂いを含んでいて、今すぐに抱き締めてしまいたいような衝動に絡め取られた。


「フラレ、ちゃった」
「そうか」


彼女が惚れこんでいたのは自分をサンダーと称していた、万丈目だった。彼はたしか天上院明日香を溺愛していたのだから、彼女はそれを知っていても勇気を出したが、敵わなかったのだ。何故、僕じゃなくて、そいつのなのだろう。海水に浸っていくスーツを気にも留めず彼女の元へと近づいていく。


「あの人に、敵わなかったよ」
「そうか」


近づいて来た僕に気がついたのか、振り返った彼女は笑っていながらも泣いていて、どうしようも出来ない僕自身を恨んだ。すぐそこに居る彼女を抱き締めることは簡単だ。だけれどもその後は、彼女の気持ちはどうする。状況に任せて自分によりかからせるようなことは、自分に利はあっても彼女にとってはその場しのぎの悲しみの吐き溜め口となるのだから、結局後悔するのは彼女だけだ。


「でも、幸せだった」
「そうか」


自分の気持ちに、気付いて欲しくないといえば嘘になる。だけれども気付いて欲しくも無いのが本心だ。人間とは厄介なものだ。理性が全てを計算して、何をどうすれば最善なのか、自分自身に利となるのかと考えて生活しているくせに、こういうときだけはそれを吹っ飛ばして相手のことをだけを考えてしまうのだから。結局逃げているのは僕だ。


「応援してくれて、ありがとう」
「年下でも、幼馴染だからな」


いや、人間が厄介なんじゃない。恋という物がただ、厄介なだけなんだろうな。でも、その恋に引き込まれてるのも僕自身なのだと、見下ろす月がそう言ってる気がした。
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