カイザー#イカれてる | ナノ
彼と付き合っていたのは、確かデュエルアカデミアでの3年生の1年間であった。
彼はアカデミアのカイザーと持て囃されており、その賞賛に値する実力を持ちえていた。
一方私のほうはというと、特段取り柄もなく成績は中の上が妥当なところ。後輩の天上院明日香にも負け越していたし、よくつるんでいた友人達との戦績も五分五分といった程度だった。
そんな私がカイザーと付き合う羽目になったのはひょんなことからだった。
私の趣味はデュエル関係の論文を読み漁ることで、図書館のパソコンで暇があれば面白い論文を探していた。とまあ毎日そんなことをしていれば、私ひとりで図書館のパソコンを独占しているに等しく、あくる日に論文検索しに来たカイザーと遭遇したって言うのが始まりだ。
カイザーが論文を探しに来る度に私がパソコンを独占しているものだから、どうにも彼の興味を引いたらしい。回数を重ねる毎に私たちは交わす言葉が増えて言った。
効率のいい検索方法や、個人的に面白いと思った論文を教えてあげたり、逆にデュエルのアドバイスを貰ったりとかして、私たちは徐々に仲を深めていったのだ。
嗚呼懐かしき若き日々。


「それで?どうやって付き合ったんだよ」


私の前の席に腰掛ける男が頬杖をつきながら吐き捨てるように言った。興味ありそうな言葉とは裏腹に、心底興味無さそうな声色がアンマッチだ。


「どうって、普通に」


付き合ってくれって言われたよ、そう言ったのなら、目の前の遊城十代は呆れたように目を細めた。
そういうことではねえんだよ、と言ってるように見えた。
と言ってもまさに言葉通りで、なにか大きな事件があったわけでもなく、図書館で論文を見ている時に、普通に言われたのだ。付き合ってくれと。
言葉を聞いた時に私は一時停止した。
カイザーという男に恋愛感情というものがあるということと、その対象が私であるということが、衝撃的だったのだ。
しかしながら、より衝撃的だったのは、一時停止が解けた私はさも当たり前かのようにYESの答えを吐き出したのだ。神経反射のようだったと今振り返るとそう思う。
そう、反射で答えを出すほどに私はいつの間にかこの男に好意寄せていたらしい。
分からないものだ、人間の感情なんてもの。
自分も他人も。


「わっかんねえ」
「遊城十代は恋愛したことないわけ?」
「いや、あるさ、そんくらい。恋愛感情がわかんねえって言ってるんじゃなくて、そんなあんたらの付き合いが1年ぽっちで終わったことがわかんねえって言ってんの」


その言葉は色んな人に吐き捨てられた記憶がある。
私たちが別れた原因は簡単な事だった。
ただ、私が彼の隣にいるに値しない人間だったってだけだ。
周りがそう判断し、私もその判断を受け入れた。
あの日のことはよく覚えてる。
彼の卒業デュエルの日だ。カイザーと遊城十代とのデュエルで。
君たちのデュエルを見て、ああ、彼は私の隣にいるべき人ではない、これから世界に羽ばたいて行く人間なのだと確信した。今までその認識がなかった訳じゃないけれど、あらためて突きつけられたのだ。
そして、いくら将来の彼の想像を巡らせても、その隣には私は居ない。いなかったのだ。
それは私の意見だけではない、彼の周りの人間も私の周りの人間も、みながみなそう考えていた。


「カイザーのこと愛想尽きたわけ」
「まさか。別れたあとも未練塗れだったよ」
「カイザーが死んだ今も?」


彼は呆気なく死んだ。
私と別れて1年だった。あれは不幸な事故としか言えない出来事だった。
彼は呆気なく、本当に呆気なく死んだのだ。
夕方のニュースでキャスターが神妙な面持ちで彼の死を告げた時、私の時は一瞬止まった。瞬きをひとつ、ふたつして、それから、彼が告白してくれたあの時に心が一瞬で引き戻されたのを覚えてる。
私は、彼が好きだった。


「カイザーが死んだ今、ほっとしてるの」


目の前の遊城十代は目を見開いた。
私の言っていることが理解できないかのように。

カイザーと別れたあと、私は口にした通り未練塗れだった。よりを戻したい訳では無かった。でも私の心は彼にしかない。行き先のない思いがぐるぐるぐるぐる回り続けて、出口のない迷宮に押し込められて。
彼の隣に自分が相応しくないのは分かっていた。だから身を引いた。しかし、だからと言って、彼が私以外の他の誰かと幸せになっている姿を受け入れられるはずもなかった。


「だって、これで彼はもう誰のものにもならない。そうでしょう?」


ひと呼吸おいて、彼は口を開いた。イカれてるなと。



20220104
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