カイザー#運命論者 | ナノ
ああそう言えば、今朝から運の悪いことばかりであった。目覚ましのセッティングを誤って、朝の四時とかにけたたましい音に起こされた。それからまだ時間があるじゃないかと二度寝をしたところ、これまた案の定いつもの時間を寝過ごして、大慌てで学校の準備をする羽目になった。全力疾走でなんとか遅刻ギリギリでアカデミアに登校したのはいいものの、なぜだか自動ドアが開いてくれなくて、それに気づかず私のおでこは盛大な音を立ててガラスに激突した。それを近くで見ていた十代は、慌てて私に駆け寄って、大丈夫か!なんて声をかけてきたが、その声色が今にも吹き出しそうなものだったので、腹が立った。

今日1日の不幸な自分の出来事を思い出しながら、私はぼんやりデュエルリングの対岸に立っているクラスメイトを見つめる。今は模擬デュエルの授業中で、戦況は芳しくない。もはや首の皮一枚繋がっている程度。あーあ、どうか相手がモンスターカードを引きませんようにって私がいくら願ったところで、その願いは神様に届かないんだろうな。そんなことを考えながら相手がモンスターを攻撃表示で召喚するのを見届けた。これもまた、今日の不幸な出来事の1ページだ。

実力は私の方が上で、あの子には一度も負けたことはなかった。初めて私を負かしたのが嬉しかったのか、彼女は歓喜極まって泣いて友人たちと喜んでいた。私が今どんな気持ちか全くもってどうでもいいのだろうな。私も、彼女の勝利なんて、どうだって良い。負けた後に他の人の試合なんて見る気にはならないが、いかんせんこれは授業の一環であるため、自分が終わったからといって退散するわけにもいかない。かと言って他のクラスメイトと一緒に残りの試合を観戦する気にもならない。しかたなしに人気がない二階席で一人残試合を見下ろすことにした。

ふと思い出した。今日の試合の第1ドローの際だ。何か予感がしたのだ。危うい予感が。その予感の通り、試合結果は私の敗北だった。もしかしたら、今日の結果はもう全て決まっていたのかもしれない。目覚ましの時間が誤っていたことも、二度寝で寝過ごしてしまうことも、自動ドアにおでこを強打することも、デュエルに負けることも。神様は知っていたのだ、いや、そもそも神様が決めているのかもしれない。私の運命を。


「負けるのは運命だった、私があの時別の選択をしようとも、それすら神様はお見通しだった」

自分に言い聞かせるようにポツリと呟いた。はずなのに、何故だか背後から「面白いことを言うんだな」なんて言葉が返ってきた。その声の主を確かめるためにゆっくりと振り返ると、そこには丸藤先輩がいた。ああ、そういえば先生が模擬デュエル開始前になんか言ってたな、カイザーがみんなの試合ぶりを見学して、アドバイスしてくれる、なんて。こんなところで観戦していたのか、知らなかったな、なんて考えていると、彼は何故だか私の隣の席に腰を下ろした。

「すべては神の選択だとでも?」

優雅に足を組み、少しだけ口元を緩ませながら、彼はそう私に問いかけた。彼の問いかけ通り、私はそう考えている。だから彼が、今ここに来て、私に話しかけることもそう問いかけることも、ましてや私の返答すらすでに神に決定づけられていたに違いない。

「あなたがカイザーであることも、神に決められた運命ですよ」

私の返答に、丸藤先輩はニヤリと口元に弧を描いた。人格者と崇められる丸藤先輩のこんな顔、初めて見たものだから、思わず体が強張った。それから息を一つ飲み込んで、私は何かの予感を感じ取った。おそらく、逃げねばならない現状、だがきっと私は逃げられない、そんな予感。椅子から立ち上がろうとした瞬間、両手首を掴まれた。それから私の体はもう一つ隣の席へと押し倒される。背中が痛いと思ったのもつかの間、視界に映る丸藤先輩の顔は、酷く楽しそうに笑っていた。

「ならば俺が今これからお前を犯すことも、神様とやらに決められていたということだな」


20181207
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