カイザー#横取り | ナノ
心臓が口から出てきそう、今の私の状況はまさにその通りであった。かねてからの思い人に告白しようと決めた日が今日だった。告白というものが人生で初めてのため、これまでほどに緊張するなんて思いもよらなかった。世の中にあふれている夫婦、カップルたちはみなこんな緊張を乗り越えてきたのだと考えると、感慨深いものがあるなあなんて思った。告白の間際にこんなどうでもいいことを考えられるのは別に余裕があるわけではない、ただ単に若干の現実逃避が起こっているに過ぎない。人間追いつめられるとこうなってしまうのだ。

そんな意気込みの私に対して水を差す輩が一人いた。丸藤はいつもの無表情で、しかしながら瞳は私を見下しているように見えて。彼からしたら告白前にど緊張するさまがあほらしいのかもしれない。だからといってそんな目で見なくてもいいのに。それから彼は言ったのだ。

「今日告白するのはやめておけ」

その言葉を聞いて私は思わず、はあ?なんて声を上げてしまった。最大限まで盛り上がっていた気持ちが急に縮んでいくのが感じられる。なぜ、と問いかけると、今日は日が悪い、だなんてよくわからない理由を口にする。ここまでで私は一つたりとも彼の言っている意味が理解できない。しかしながら、彼の言葉によって自分の気持ちが告白するようなテンションではなくなっていることは、理解できた。こんなことを言われてしまえばどうしようもできなくなる。不安げに彼を見上げるが、彼の瞳はやはり私を見下しているように見えた。


翌日丸藤の思惑を理解することができた。登校中に昨日告白するはずだった思い人に出くわして、彼は言ったのだ。恋人ができたと。その言葉を聞いて頭が真っ白になった。彼の話をよくよく聞いてみると、昨日、後輩の女の子に告白されたらしい。告白されたときは断ろうと思ったのだが、告白の後に一時間ほど話してみると彼女にどんどん惹かれていったらしい。この人だ、と思ったのだと。それから彼は残酷な言葉を吐き捨てた。

「今だから言えるけど、お前のこと気になってたんだ」

無邪気な笑顔で彼はそういった。それから私の返事も待たず、彼女の後姿を見つけたのか、じゃあなと言って駆け出して行った。なんだそれ、なんだ、それ。よくまあ私にそんな爆弾に等しい言葉を言えたものだ。彼は思いもよらなかったのだろうか、私があなたを好きだということを。彼は何も悪くない、悪いのは私だ。昨日告白していればもしかしたら彼と付き合えたかもしれない。それをしなかったのは、私の選択なのだから。

選択?私は昨日告白する気満々で、その寸前までいっていた。その気持ちが折れた原因を作ったのは。はっと思いだしたその瞬間、後ろからすっと抱きすくめられた。

「あんな男やめといて正解だろう」

耳元で優しく甘く響いたのは、昨日私を見下した瞳で見つめてきた男の声だった。

20181107
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