万丈目#不真面目な万丈目 | ナノ
自分で言うのもなんだが、私は実に真面目な人間であると思う。学校に遅刻はしたことはないし、早退だってない。ましてや早弁や授業のエスケープなどやってやろうと思いつくことさえも、私にとっては禁忌の類の感覚なのだ。なので授業をさぼったり平然と授業の途中で登校したりしてくる輩を見て、憤りを禁じ得ない。なぜそれが当たり前かのような涼しい顔で過ごせるのか甚だ疑問である。こういうわけで私はそういう類の輩が、苦手であるのだ。特に名前を挙げるのならば、クラスメイトの万丈目とか。彼は時折ふらりと教室にやってきて、ふらりといつの間にか消えていたりする。先生も彼の行動について注意はするのだが、それさえもへらりと笑ってなんともないように躱すのだ。いくら叱っても暖簾に腕押しといった感覚が先生たちにとってはしんどいらしく、いつからか彼はよく言えば容認、悪く言えば諦めの上放置、という待遇に収まっていた。

まあなぜ私が彼の名前を挙げたかといいますと、真面目な人間の私からすれば彼は苦手な生き物であるわけでして。そんな彼と二人きりという謎の状況に出くわしてしまっているのだ。

万丈目とは出来ることなら卒業まで関わりを持つのは避けたかったのだが、いかんせん、真面目な人間故先生からの頼みごとを断る勇気は持ち得ていなかったことが、大本の原因だったりする。先生がプリントの束を渡しながら、日直のふたりでやってくれなんて言ってきたものだから、私は思わず絶句した。なんてったって、今日の日直は私と万丈目だったのだから。頼まれた時にはいつものように万丈目はどこかでエスケープしていたし、今日の日直の仕事もほとんど一人でやっていたのだから、頼み事も私一人で取り組めばいいやと引き受けた。むしろ二人でやるなんてたまったもんじゃないし。
言いつけ通りプリントの集計を地道にしていると教室のドアがガラリとあけられた。先生が集計結果を取りに来たのだと思い、まだ終わってませんよと視線をそのままに話しかければ予想外の返事が聞こえてきたのだ。

「手伝う」

声色だけで分かってしまった。万丈目だ。彼がこの場にきたことにも驚きだが、発せられた言葉にも衝撃が走った。手伝う?彼にそんな奉仕の精神が備わっているとは。驚きで身を固めていると彼はふらりと私の前に席に座り込み、プリントの半分をかっさらっていった。
こうして彼と二人の空間の完成だ。勘弁してほしい。

こうなってしまってはどうしようもない。私の頭の中はどうにかして早く終わらせて退散しようという考えで埋め尽くされた。この状況のおかげで先ほどの作業からは考えられないほどのスピードアップを可能にした。頑張ればやれるじゃん私。猛烈なスピードで私の分の仕事を片付け終わると、不意に思ったのだ。彼は一体誰から聞いたんだろうか、先生にでも出くわして仕事しろ的なことでも言われたのだろうか。もしそうだとしたら、あれだけ先生に遅刻とサボタージュのお叱りを受けておいて開き直っているというのに、こういうときだけ先生の言うことを聞くなんてちょっと見直したじゃないか。不意に彼の進捗具合はどうだろうかと彼の方を見やると。

こいつ、寝てやがる。

握りしめたプリントの束で思いっきりどついてやりたい気分になった。そしてつい先ほど彼をちょっと見直したという考えを木っ端微塵に粉砕したい。そんなこと少しでも考えた自分も殴ってやりたい。
結局どうなったかっていうと、彼の分も私が処理して寝落ちしたこいつはおいて帰ってやったとさ。やっぱりこういう輩は嫌いだ。


20180530
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