万丈目#生き急ぐ | ナノ
相手のフィールドと己のフィールドと、それから手札に目をやり、そして自分の負けを確信した。状況を見ただけで結果がわかってしまった。この時ばかりは自分が頭が良いことを呪った。決着が着く前に自分の負けがわかるなんて絶望するほかない。不様だ。そこからの記憶は曖昧で、気が付けば自分の控え室で対戦相手のヒーローインタビューが垂れ流されるテレビの前にいた。それがより一層自分は負けたのだと重くのし掛かり、言葉にできぬ思いが胸の奥に居座っていた。プロになって早5年連勝を重ねてきたが、まさかここで敗れることになるとは。別に己の実力におごり高ぶっていたわけでもない、連勝に調子付いていたわけでもない。だからこそ、ここらが潮時なのだろうかと思った。世界は広い。次の世代もどんどんこの世界に進出してきている。どんなに努力しようとも作戦を練ろうとも、自分が敵わない相手はそこら中にいるのだ。そういう相手と当たってしまったのだ。

ソファに深く沈み込み、ふと学生時代のことを思い出した。あの頃は楽しかった。今と違って俺は幼くて、誰よりも自分が強いのだと驕り高ぶっていて、それから突然現れた十代というイレギュラーに俺の高々な鼻をへし折られて…。あの頃は俺はずっと夢を見ていた。技術を磨き努力をすれば、憧れてやまなかった相手を超えることもできると。子供の頃は早く大人になりたいと強く願ってはいたが、大人になって現実を知ってしまうとあの頃の無邪気さが羨ましく思える。あの頃のようには戻れはしないのだ。

「そう言えば、天上院くんが振り向いてくれることもなかったな」

学生時代に強く思いを寄せていた女性もとうとう自分の手に入ることはなかった。つい先日の食事会で婚約者を紹介されてしまったのだから。とても、言葉で言い表せないくらい好きであったはずなのに、そのことを報告された時は大してショックを受けることはなかった。きっと心のどこかでわかっていたのだろう。彼女は俺を選ばないと。それはずっと、ずっと前から、わかっていたのだろう。

俺はこれから先、彼女以上に好きになれる人ができるのだろうか。デュエル以上に夢中になれるものに出会えるのだろうか。俺はまさにその二つのために命をかけたこともあった。それ程大切なものだったのだ。しかしながらそれらは俺の手のひらからするりとこぼれ落ちて、もうなにも残っちゃいない。俺はこれからどうやって生きていくのだろうか。どうしようもできない現実から逃避するかのように俺は目を閉じた。
嗚呼、テレビのヒーローインタビューが喧しい。

20170409
--------------
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -